オリクマ.jpg
オリンピックマを読む

駿河屋の福袋

その買うを、もっとハッピーに。|ハピタス
*お知らせ

駿河屋がマジで最高! ブログは、
あんしん買取がマジで安心! ブログに移りました。

2015年06月25日

トレカ屋開業 その31

第四章 カード屋になる

  1 勇気王カード

 おもちゃも本もゲームもガチャガチャもダメ。
 となると、もう諦めるしかないのか。
 そんなとき、一人の子どもがカードゲームを置いたらと言ってきた。
「カード置かないの?」
「カード? 売れるの?」
「学校ですごい人気だよ。ほとんどの人がやっているよ」
「カードゲームか……今は漫画やゲームじゃなくカードの時代か。ねえ、今、カードっていくらするの? 俺の時代だったら一枚二十円だったんだけど」
「五枚で百五十円」
「高っ! 一枚三十円か。ただの紙なのに。……ねえ、これさあ、どうやって遊ぶの?」
 子どもに遊び方を教えてもらうが、いまいちわからん。どうも俺の子ども世代にやったカードゲームとは比較できないほど複雑化している。
 大の大人がルールすら理解できないのか。こんなもの、子どもたちはよく理解しているな。
 
「これってさ、攻撃力が高いのがいいカードなんだろ?」
「いや、違うよ。攻撃力が強くても、初めのうちは出せないし、魔法カードも大事なんだから」
「……難しい。皆、これ理解しているの?」
「うん!」
 カードゲームか……。
 当時、子どもの中でカードゲームがかなりはやっていた。
 しかし、新品を安く購入するルートない。
 中古品だけで何とかなるのかなそう、半信半疑で始めたカードの取り扱い。
 初めはどのカードがどれぐらいの価値があるのか全然わからなかった。まさに手探り状態。
 
 インターネットの人気のあるカードを調べた。
 ……強いカード、弱いカードがある。
 基本は強いカードが高く取引されているようだ。
 買い取り価格、販売価格もインターネットで調べる。
 勇気王カードは、 デッキを使い、二人で勝負するゲームである。
 二人のターンを交互に繰り返し、手札から召喚したモンスターなどで相手を攻撃して、基本は先に相手のライフポイントを〇にすると勝利になる。
 商品を店に置いてみるととても大きな反響があった。
 今までのお客さんの来るケタが違う。何十人と来てくれた。
 
 カードゲームはいける。この路線でいこう。
 俺はそう思い、おもちゃも本もゲームもガチャガチャのスペースをこのカードゲームのためほとんどの売り場を廃止した。
 それ以来、女の子お客さんはいなくなった。
 まあ、いいか。問題は店が存続できるかどうか。売れれば他の商品を置くこともない。一点集中だ。
 完全にカード屋になる。
 客層が子どもからマニア層に変わった。
 中学・高校生も遠くから来てくれる。
 大人の方も好きな人がけっこういるみたいで、ちょくちょく店に寄ってくれる常連客もできた。
 何より大人の場合一度に数千円使ってくれることがある。

  2 よくわからないクレーム

 向かいの薬局屋がうちの店に文句を言いに来た。
 薬局屋の裏でカードを開けた袋が散乱しているということだ。
 意味がわからなかったが現場を確認。たしかにゴミが散乱していた。
「これ、おたくの扱っているもんやろ。これ以上、ゴミを撒き散らかすようやったら警察に言うで!」
 ……はあ?
 うちの店ではカードの中古売買だけだったため、こんな新品の袋が捨てられることなどなかった。
 店に置いていない商品の袋を誰か知らない子どもが、どこにゴミを出そうと知ったことじゃない。
 うちの店は子どもが多いので勝手にそう判断された。
 
 さて、この新品のカードの販売元は前にも述べた近くのコンビニである。
 コンビニで買った商品のゴミを薬局の裏に捨てられていたのだ。
 そのことを薬局屋に言うと、特に悪びれた様子もなくのそのそと自分の店の中に戻って行った。
 警察まで呼ぶと言っておいて、特に謝罪もなしか。
 ここは特殊な地域だ。そういうことがあっても不思議ではないか……。
 
 そして、全く経験のない勇気王カードを取り扱うことになったが。莫大な人気に!
 おそらく商店街の中で最も混んだだろう店になった。もはや人気店だ。
 だが、ここで問題があった。
 それは自転車の問題。これが究極だった。
 ……泣きそうになる。せっかく来てくれたお客さんが店に入ることすらできずに帰ってしまう。
 
 また、夏はとんでもないことになっていた。
 店のクーラーが不気味なので起動させることはない。
 なので、狭い店に何十人も人間が入る一種のサウナ状態になった。
 ああ、店の大きさが広ければ……。
 
 勇気王カードは値段の高いものはガラスケースに入れた。
 お客さんがそれを見て、欲しいものが見つかればガラスケースから出す、そういう販売形式だ。
 ガラスケースは二つしかなかったので、他のカードを売ることができない。
 そんなもったいないこと見逃すはずもない。
 俺は勇気王のカードを見本としてアルバムに数十枚入れた。
 万引き防止でカードを出し入れするところにはしっかりとテープを貼っている。
 これなら何枚でもカードをお客さんに見てもらい、買ってもらうことができる。
 これはいいアイディアであった。
 おかげで一枚二十円や五十円といった安いカードも売れた。
 安いカードは仕入れ値が安いのでいい利益率になった。おもちゃの比ではない。
 また、収納するスペースが少なくてもよいのがカードのメリットだ。
 少し、店が持ち直してきた。

  3 万引きがキツイ

 しばらくして、アルバムの中の勇気王カードが盗られることに気づいた。
 ひどいときはアルバムのファイルをカッターで切り取って、ファイルごと盗む奴も出てくる。
 ……万引きだ。
 どの店でも一度は苦しめられる万引き。
 ただ、この店は毎日、営業時間ずっとこの万引きが日常茶飯事に行われていた。
 防ぐことは難しい。
 対策としてカードにパンチで穴を開けた。
 
「あれ? 店長、何でカードに穴開けているの?」
「ん? ああ……これね。万引き対策。俺もこんなことしたくないんだけど」
「もったいない。何でこんなもったいない扱いするかなあ?」
「いや、だから対策……」
 もったいないが仕方ない。
 実物をコピーしてもよかったのだが、すでに多くのカードが販売されており、それだけの量をカラーコピーするのはとても面倒だった。
 しかし、カードに穴を開けるがそれでも盗難される。
 
「あれ、でもここ……ファイル、切れているよ」
「え……ウソ? だって、穴開けたとき、切れたファイルは全部処分したんだけど……」
「ほら……ね?」
「本当だ……ということは、パンチで穴を開けても万引きする奴がいるのか? 何のため? もはや嫌がらせか?」
 斬新な方法でカーテンレールにボードを貼りつけ、スライドさせるという奇抜とも言える方法をとって販売もした。
 かなり変わった販売方法。ボードにはカードでギッシリだ。
 これを見てお客さんが、「左から三つ目で上から六つ目」というふうに欲しいカードを注文する。
 
 いろいろな展示方法を試みた。
 万引きされない販売方法を模索したのだ。
 手製の鍵つきカード専用什器を作るが、これも盗難の被害にある。
「このカード欲しいー」
「ああ、はいはい。これね。ありがとうございます。ちょっと待ってね」
 鍵を開けるのは時間がかかる。
しかし、この鍵付き什器の収納力は低い。無駄なスペースが多すぎた。
 そして一部の場所が、すっからかんになっているのに気づく。
もちろん売れた覚えはない。また万引きか……。
 もはやゲームだ。
 この店では買うのではなく、ゲーム感覚で万引きをする店……店ではない。もはや場所だ。
 一部の人間にとっては都合のいい場所だった。
 盗ることができれば自分のものになる。
 それはゲームの中でしか許されないことだ。子どもはゲームと現実がごっちゃである。
 万引きには店をオープンしてから始終の間、悩まされることになる。
 
posted by サイコー君 at 00:26 | Comment(1) | トレカ屋開業(自作ラノベです) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

トレカ屋開業 その30

  8 ガチャガチャなどの自動販売機について

 そういえば、うちの店にはガチャガチャやカードの自動販売機がある。
 カードの自動販売機については昔カードダスと言った。
 今でもそう呼ばれているのかわからないので、この物語ではカードの自動販売機と呼ぶことにする。
 店のオープン前に話しはさかのぼるのだが、俺が什器を揃え、おもちゃや本を店内に並べているとき、ある人物がやってきた。
 
 ……話を聞くと、この店にガチャガチャを置かしてほしいとのこと。
 これはこちらとしても大歓迎だ。
 俺はその話しにすぐ承諾する。報酬は売り上げの二十パーセント。
 つまり一回百円のガチャガチャなら二十円がうちの店の取り分になる。
 千円分売れると二百円である。
 これは俺個人としてはけっこう大きい報酬率だと思った。
 その分、店のおもちゃの売り上げは下がるかもしれない。
 だが、おもちゃを仕入れるときみはお金がかかり、売れなかったときは在庫を抱えることになる。
 それがこのガチャガチャならいらない。
 カプセルの中身の商品は向こうの業者が揃えてくれる。本体の貸し出し料も無料だ。
 断る理由はない。
 
 これは古物とは関係なかったので、店の改修作業をやりつつ店の前にガチャガチャ本体を出していた。
 ……ちょくちょく売れていたみたいだ。
 このガチャガチャの業者、リスクゼロでかなりいいように思えるが、実はそうではない。
 まず商品はこちらでは選ぶことができない。
 台紙がカラーコピーだとか、明らかにシーズン遅れのものをカプセルに入れられた。
 例えば、○○3! といった、シリーズ三作目が出ているのに一作目を商品にするとかだ。
 そういうのは全く売れない!
 あと、商品の補充、入れ替えの時期がいい加減なのである。
 初めは毎月に一回来てくれた。
 商品の内容も変わり、業者の人が来てくれるたびに店に新鮮さが出る。
 だが、三か月たっても業者が来ないといったときもあった。
 こちらから連絡を入れても来てくれない。
 
「あのー、○○さん?(業者の人の名前)最近あまり来てくれないようですが、次はいつ来てくれるのですか? もう売り切れしている台も多いですが……」
「すみません、近々行きますので」
 そう言って、さらに何か月待たせる?
 連絡すら取れないことがあった。
 アフターサービスが非常に悪い業者だった。
 人のことを言えないが、商売やる気あるのか!
 店には売り切れ中の貼り紙がされたガチャガチャが並んだ。
 こうなればスペースの無駄使いである。
 強引にお金を入れるお客さんもいる。
 そのたび、入れた分のお金を返す。

 ガチャガチャの業者のあまりにも商売っ気のない対応。
 だが、ガチャガチャはお金になりそうだ。
 そう思った俺は個人で、カード販売機とガチャガチャ本体を買うことにした。
 そのルートは毎度お馴染みのネットオークション。
 意外と安く購入できた。上下セットを四千円ほどで購入。送料が三千円ほどついた。これを四台ほど買う。
 上下合わせて八台のガチャガチャが増えることになった。
 これを正規での値段で買ったらとんでもない金額になる。軽く十万は超えるだろう。
 店はガチャガチャ屋みたいになった。
 
 カプセルの中身はインターネットでガチャガチャ問屋みたいなところから購入した。人気が少ない商品は安く買い求めることができた。
 ただ、仕入れは百個単位だった。
 もちろん、そんなに売れるはずがない。
 どれも十個ほど売れて皆、興味をなくした。
 ガチャガチャ屋は無理か……。
 多くの在庫とガチャガチャ本体を残した。
 これ以上、ガチャガチャで推そうとしないと決めたとき、これが非常に邪魔になった。
 やはりここでも在庫スペースの不足が足かせになる
 
 また、不正行為をする者がいた。
 お金をいれていないのに、商品が出ないといって二百円をせしめるのだ。
 後でそのお客さんの知り合いが言っていた。
 思い出せばそのガキ(もう、ガキでいい)は以前にもそう言って二百円持って行かれたことがある。
 子どものくせして、何と悪どいことを考えるのだ。
 不正行為は子どもがほとんどだ。大人では考えないこと、できないことを平然とするからな。
 また、彼らはそれがどれだけ悪いことかわかっていない。
 例えバレても大して罪にならないことを知っている。
 万引きは軽犯罪? たかが万引き? ……ではないのだ。
 万引きで店が潰れるケースはうちの店だけではなく、他にもよくある話しだ。
 こういうのは子どもにしつけをしない親や学校が悪いのだろうか。
 
 ガチャガチャにゴミや一円を入れて壊すものがいた。これも最悪である。
 お金を入れたのに……というので二百円返すが、よく調べてみると、お菓子の袋や一円玉が詰まっていた。
 ガチャガチャは電気を使わないので、こういうトラブルには弱い。
 なかなか不正が見抜けない。実際にお金を入れても商品が出ないことがある。
 そういう本当にトラブったお客さんに、「本当にお金入れたの〜?」と聞くのは何と罪であろうか。
 自動販売は一見楽そうに見せるが、実はトラブル続きだという実態を読者の方に知ってほしい。
 
 ガチャガチャのトラブルとしてもう一つ。
 ガチャガチャ本体を移動させる子どもいた。
「外に持ち出そうか?」と子どもたちがガチャガチャ本体を定位置から移動させる。
 ふざけんな!
 子ども二人でも持ち上げることのできるガチャガチャ本体。無防備すぎる。
 かといって、ガチャガチャ本体が重ければ、店主がいざ移動させるときに困ってしまう。
 ガチャガチャの上に乗る子どももいた。
 すごい地域だ、ここは……。
 俺の地元の隣町とはいえ、こんな自由に暴走する子どもたちに会うのは初めてだ。
 怖いもの知らずというか、世間知らずというか……。
 俺は何度かキレかけたこともあったが、そのつど店を閉店にした。
こんな気分で店を開け閉めするのは本来よくないんだが。人間、嫌なときはあるものだ。

 ――子どもは儲かっているやろ! と言ってくる。
 儲かっているわけねえだろ! そう怒鳴り返してやりたかった。
 何で今日の売り上げ三百円のこの店が儲かると思う。
 俺も、「ああ、儲かっているよ」と言ってみたいものだ。
 しかしそれを言うなら今までより三十倍以上の売り上げが必要だ。
 そんな日は来るのだろうか。
 
 ……儲かってない、儲かってないよ。
 子どもはそれをウソだと思う。
 売れてなんだよ……わかるかい?
 売れないことが当然のようになってきた。
 売れなければ心もすさむ。張り合いがなくなる。店の活気もなくなる。
 ……これが悪循環というものだ。

 シャッターの調子が悪すぎるため、シャッターを開け閉めするテクが必要だった。
 これが甘いと、シャッターを二、三度細かく上下することで開いてしまう。
 以前、子どもたちがイタズラでシャッターを開けてしまったことがあった。いや、壊してしまったと言うべきか。その日、店は定休日だった。
 
 隣のクリーニング屋から俺の携帯電話に連絡が入る。
 俺はすぐ店に向かった。
 シャッターを開けようとした子どももいけないが、そんなに簡単に開いてしまうシャッターのほうがよっぽどいけなかった。
 ……だからボロイ物件は嫌なんだよ。
 それ以来、シャッターは開けるとき、下を足で踏みつけたまま鍵を回さなければ開かなかった。
 また片一方のシャッターは内からでないと開けられない。
 閉めるときは普通にシャッターを下げると途中で止まってしまう。
 だから閉店時には、シャッターを途中まで下し、鍵を入れて半分回し、その状態のまま足でシャッターを完全に下す。そして鍵をもう半回転回せば完成だ。
 なんと面倒な!
 
 そしてシャッターの支柱は常に固定していた。
 どこの店が支柱を固定しているのだ。なので、入口には支柱がずんと立っている。はっきり言って邪魔だ。
 知らない人はこの店の店長は何考えてんだ? というふうになる。
 違うんだ。支柱は取り外したい。それは俺も思う。当然のことだ。
 シャッターも閉めるにはコツがいる。
 閉めるのにコツってなんだ。どんな店なんだ。
 誰かこの店がおかしいことに気づいてくれ。他にも見てくれよ。
 便所は和式だし、クーラーは黄色に変色。天井は低すぎる。在庫を置くスペースなんかほとんどない。自転車もろくに置けない。
 ……そんな店なんだぜ。
posted by サイコー君 at 00:23 | Comment(0) | トレカ屋開業(自作ラノベです) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

トレカ屋開業 その29

  7 店のサービス向上

 うちの店では無料でゲームができる。
 しかし、できるゲームはかなり古いもの。俺世代、つまり十年以上前のものである。
 DVDとテレビが一体型のものを買った。値段は三万円ぐらいだったか。やや高かったが、デザインが面白いし、かわいい。
 ゲームでなく、このテレビについてよく聞かれることがあった。
「このテレビ、いくら〜?」
「いや、これ売りものじゃないよ〜」
「このテレビ、素敵ですね」
「はぁ〜、それ家電量販店が買ったものです。まだ売り切れてなければ間に合いますよ」

 無料でゲームができるようにした理由は、まず客寄せ。
 あと、最近の子が今のぬるいゲームしか知らないというのはかわいそうなので、昔のクリアするのが非常に困難はソフトをチョイスした。
 で、一番の理由は純粋にせっかく来てもらった客に何かプラスなことをしてあげたいと思った。
 お金のない子どもたちでも、店に来たら楽しめる空間を目指した。
 大手の家電量販店でも、こういった無料でプレイできるコーナーを設けている。
 しかし、これらは著作権的にはどうだろうか。
 実際、小規模な店では見て見ぬふり、大きな店ではゲーム会社に使用料をとっているかもしれない。
 
 商品の漫画は立ち読みOKだ。
 漫画は客寄せにかなり活躍してくれた。
 少年コミック以外にも少女コミックも置いた。
 少年コミックの知識は多少なりともあったが、少女コミックについては何が人気なのか全然わからない。
 また、これもオークションで買ったものだが、少年コミックと比べ、少女コミックは比較的本のダメージは少ない。中には新品ではないかと思う本もあった。少年と少女だけでえらい違いである。
 男の子もそうであるが、意外にも女の子のほうに人気があったような気がする。一般的におもちゃ屋というと男の子のイメージがあったが、おかげで女の子のお客さんもけっこう来てくれた。

 店を始めて数か月たったとき、一度だけだったが遺留品整理というか、出張買い取りを行った。
 まあ、漫画を置いていたのでそれは歓迎だ。しかし漫画に限る。
 他の本はいらない。依頼主の話しを聞くと、漫画本はなさそうだ。
 だが、お客さんが本当に困ってそうなので、力になってあげたいと思い、これを引き受けた。
 幸い、場所は近くだ。
 以前、購入していた台車を活用し、十往復近く店とお客さんの家を往復する。
 二時間はかかった。
 
 亡くなった人は本好きの人だったらしい。
 たくさんの本がある。まあ予想はしていたが、やはり漫画はない。
 ほとんどの本にカビが生えていた。
 しかし、今さら断るわけにもいかない。
 俳句の同人などが多い。こういうのはどこの古本屋に行っても、買い取りしてくれないだろう。
 日記や活動報告書などある。こういうのは、俺みたいな店に処分させるより自分の家で引き取ったらどうだろうか。
 せめて市販書だけにしてくれ、と心の中で叫ぶ。
 合計五千円ほどで買い取りする。俺にとってはかなりサービスしたほうだ。
 一時、店で本を保管するがあまりにも多い。
 仕方ないので什器の下や、本当に一時的にトイレの中などに入れた。
 いかん。これは一刻も早く処分すべきだ。
 じゃないと、店がただの物置小屋になってしまう。
 美術書や歴史の本もあったので、俺は古書専門店に行って買い取りを求めたが買い取ってもらえなかった。
 はあ……処分が面倒。
 結局、持ち主には悪いが全て捨ててしまった。
 失ったものは五千円。あと、膨大な時間と手間。
 まあ、これも経験の一つだ。
 ……これからはきちんと断ろうと思った。

 ある日、趣味用のトレカを商品に置いてみた。
 店の商品は一存で決めることができる。完全に自分の趣味が入っていた。
 日曜日の朝に放映される子どもの女の子向け作品だ。
 この作品、一部のマニアには圧倒的な人気を誇った。
 俺もこのマニアの一部なのだが。
 カードもだぶついていたので、一枚十円で販売した。
 これがたまに売れるのである。
 マニアではなく女の子に。
 
 このトレカを商品に並べたとき、同時にブログでも宣伝しておいた。
 もしかしたら仲間がいるかもしれない。そういう軽い願いだった。
 この作品、盛り上がったのが何年か前である。もう原作は終わった。
 人気があったといえど、もう下降気味である。
 というわけで、このカードの取り扱いしているところはもう日本でも数店だったはずだ。
 もしかしたらうちの店が最後だったかもしれない。
 そして、遠いところからわざわざ来てくれたお客さんがいた。
 ありがたい……。
 お客さんとしてももちろん嬉しかったが、同じ作品を愛する仲間が駆けつけてくれたことが嬉しいではないか。
 彼は仕事の帰りによく来てくれた。
 そして、よくお金を落としてくれた。大人が欲しがるような商品などうちの店にはほとんど取り扱いもなかった。
 彼は高いゲームソフトを買ってくれた。
 それほど他店と比べても安くはない。
 彼は携帯ゲームを好んだが、うちの店にはほとんどない。
 あっても面白くなさそうであったり、子供向けの作品であったりする。
 それなのにわざわざ購入してくれるではないか。
 いいお客さんであり、いい友人だった。
 彼とカードゲームをして遊んだこともあった。
 こういうお客さんの触れ合いがあるから個人事業は楽しい。

 売り上げの記録はしていない。
 これは経営者、商売人としては失格だろう。
 理由としては手元にお金がない。財布の中には数千円。銀行の口座には十万円もなかった。
 その日の食費のために店のレジのお金を使う。
 余裕資金がない。
 売り上げはそのまま生活費になった。
 一日の売り上げが数百円のときもままあった。
 売り上げが〇、来客数も〇という日が三日続いたときはさすがに辞めようと思った。
 しかし、売り上げがなくても毎日の家賃、光熱費、商店街費とやらがかかるのだ。
 趣味でやる店にしてももう少し売り上げがないと存続が厳しい。
 なにせ、夕方十六時以降になるまでお客さんは全く来てくれない。
 それから来てくれても、相手は小学生から中学生ぐらいが中心。空が暗くなると帰って行った。
 実際、接客する時間は一日三時間ぐらいである。これはキツイ。
 まだ商店街が活気づいていたら、幼稚園、保育園の帰りにお母さん方も店に寄ってくれることもあっただろうが……。
 
 財布、銀行にお金がなく、俺はとうとうバイトすることになった。
 コンビニエンスストアの夜勤バイト。
 昼と夕方は自分の店で、夜から朝にかけてはコンビニ。朝から昼の間に眠るのだ。
 これはけっこう体がしんどい。
 でも働かないと、家賃が払えない。完全に自分の店が足手まといだ。
 疲労のあまり、自分の店を休むこともあった。まさに本末転倒である。
 しかし、働けば働くだけお金がもらえるというのはありがたい。
 当たり前なのかもしれないが、それが自営業なら、ない。
 店の商品が売れなければ、現金は入ってこないのだ。
 
 コンビニでは商品をピッピ、ピッピとスキャンして、品出し、袋詰めといった勤務内容だけである。
 それだけで時給千五十円もらえた。一日に六時間働いていたので六千三百円だ。
 おもちゃ屋をやって経費を引いて、純利益で一日六千三百円稼ぐのは至難の業だった。
 なんだ……バイトのほうが圧倒的に楽で簡単じゃん。
 気づくのが遅かった。
 というより、正社員はもっともらえる給料は高い。
 いつ選択を間違えたか、開業しようとしたときか?
 いや、学生時代に就職活動しなかったときまでさかのぼる。
 何だ、俺ってそんな前からミスっていたのか。
 気づいた時にはすでに遅い。
 だが、過去に戻るわけにもいかない。そんなことできないからだ。
 なら、今の状況は好転しよう。これしかない。
 知恵を絞って、何とか成功させるのだ。
 
 コンビニで働いている限り、完全に資金が尽きるということがなくなった。ここからは頭を使おう。
 軌道に乗れば、コンビニバイトを辞めればいいじゃないか。
 自分の店で一日五千円でも稼ぐことはできないか。
 それが利益でなくてもいい。売り上げでよいのだ。
 売り上げが千円を超えただけで喜んだときもあった。完全に経費倒れなのだが。
 もっと理想を高く持とう。
 せっかく高いお金を払って、今、おもちゃ屋をしているのだ。
 そう何度決意したことだろうか。
 
 今さらだが、店に並ぶ商品が同じおもちゃばかりで飽きてきた。
 店主の俺が思うぐらいだ。お客さんが思うのはそれ以上だろう。
 新作を入荷したいものの、在庫、資金的に難しかった。
 残念な言い方をすると、おもちゃ屋としては終わりだ。
 そんな商品がいつも同じ日がしばらく続いたが、有る程度コンスタントに売れ続ける商品もあった。
 それは追加注文したぐらいだ。商品はプラスチックの刀。忍者刀だった。
 これが百円ショップの物と比べて、もうワンランクほどクオリティが高かった。
 刀身の長さがある程度あって、デザインも悪くない。子どもにはウケそうな商品だ。
 ただ、これを店で振り回したり、ケガをさせたりと問題になってしまう。
 店側としてはもうお客さんに売ったので、それをどう使おうが自由だ。だからそう強く言うこともできない。
 忍者刀は問題商品になってしまった。そのうち、刀で叩かれた親が店に乗り込んできそうだ。
 こんなもん売るな! と。
 次からは入荷しないでおこう。俺そう思った。
 
 今、在庫は十本ぐらいある。価格を二倍の二百円にした。
 これで、簡単に刀を手に入れることはできなくなった。
 売れても利益は倍以上だ。仕入れ値の三倍にはなっただろう。とんでもない店主だ、俺は。
 価格を二倍に上げ対策するがそれでも買ってくれるお客さんがいたので、かわいそうになって元の価格に戻した。
「……百円でいいから、マジで振り回さないでね」
「はーい」
 バチンバチン……
「言った側から暴れてやがるし……」
 また、他にもよく売れる商品としてなわとびがよく売れた。
 五十円。かなり安い。百円ショップの半分の値段。この店の目玉商品といってもいい。
 利益はあまり取れなかったが、こういう人気商品を置くのはいいことだ。
 でも全体的に縄が短く、うまく機能したかどうか。小学校低学年年齢向けだろう。
 ある日、実験的な感じで五十円のアイドルの下敷きをバラして一枚百円で売ると、けっこう売れた。
 これを小中学生が手に入れる手段は難しい。おそらくアイドル専門店やネットで購入するしか手に入れる方法はなかっただろう。
 珍しいといえば、珍しい商品。
 定価が五十円なので少し気が引けたが。理由は百円でも売れそうだったから、なのだがそういうことをするから客離れするのだろうか。
 しかし、どのアイドにするか選択できるので、選ぶ確実性を売りにした。
 案の定、人気のないアイドルは売れなかった。
 そうか、クジはそうなることを考えてのものだったのか。
 欲しいものが当たるまでクジを引き続ける射幸心を煽られる効果にも一役買っている。
お客さんは男の子が多かったが、小学校高学年の女の子が珍しく何度も店に来てくれた。口コミで広がった。
 アイドル専門店に転換することも可能だった。
 だが、こういうアイドルグッズ、版権や著作権はどうなっているのだろう。
 違法なような気もしなくもない。

 ――店が荒れる。
 いや、俺が店の中で暴れているわけではない。
 十人ぐらいの小学生が一斉にカウンターの中に入って来ることがあった。
「入れ、入れー」
「わー」
「きゃー」
 皆で入れば怖くないってか?
 ……いや、怖がれよ。普通に入ってくんな。
 こうなると大変。パニックである。
 いろんなものがパクられる。人数が多いので、誰が何を持って行ったのかわからない。
 
 店の商品のボールで、ボール投げをすることがあった。
 百円ショップで六個セットのものを一個五十円で売っていた。
 市販されているものをバラ売りにするのはけっこういい方法だ。
 店の中で二十個ほどのボールが飛び交う。素材はプラスチックだ。当たっても痛くない。
 店の外に出ると大変だ。それを回収しなくてはならない。
 俺が外でボールを回収している間、またガキどもがカウンターの中に入る。
 
 ……無法地帯だ。
 叱るにそうきつくは叱れん。
 怒鳴ることは最も苦手だ。子どもたちは楽しんでいた。店としては悲鳴を上げていた。
 遊技場のようだった。でも、たまには商品を買ってくれた。
 俺はMなのだろうか。こんなことをされてもけっこう楽しかった。
 
 ひどいのはコミックスを万引きして、そのまま売る奴もいた。
 買い取りについては後に大問題が起きるのだが、それは第四章で述べることにしよう。
 とにかく、買い取りはトラブル続きだ。古物の取り扱いは上手くすれば安く商品を仕入れられるが、手を誤るととんでもないことになる諸刃の剣である。
posted by サイコー君 at 00:22 | Comment(0) | トレカ屋開業(自作ラノベです) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

トレカ屋開業 その28

  6 商店会費

 ある日、町会の人間と名乗る人物が店を訪れる。
 商店会費を請求される。月二千円。
 ……おかしくないか? 月二千円?
 何に使う? なぜこんなに必要なのか。
 こんな駐輪場もないさびれた商店街なのに!
 
 町会費も取られる。
 これはこの地域に住む世帯単位で支払うものだ。
 こういう町会費は強制なのだろうか。
 むろん、払わなければ何度も来て、いじめのような扱いを受ける。
 これがさらに月に千円ぐらいだったか。
 とにかくいろいろ理由をつけて金を取られた。
 そもそも商店街に店を出しているわけでそこで生活しているわけではない。それでも払う必要があるのか。
 新参者だと思って何でもぼったくりしようとしている気かもしれない。
 詐欺のようなものか。
 おまけにアーケード代も月千五百円かかった。これは何だ?
 
「あの……これ本当に必要なんですか? そもそもこれ皆払っているの?」
「ここの商店街では決まっています。もちろん皆さん払ってもらっています」
(こんな客足もない商店街にこの価格? あ〜、だからシャッター街って言われるんだ。そりゃ、誰もこんな商店街の会費なんて払いたくないからね)
 必要だとしてもなぜこんなに高い? 毎月払う必要がある?
 そんなにアーケードは壊れないだろ?
 絶対、他の何かに使っていると思った。
 とにかく、商店街に店を出すだけで五千円近く取られた。
 意味がわからないのだが……。
 
 商店街のホームページを見ると、こうだ。
 
 商店街加盟店にご加入いただくと商店会費、アーケード維持費、電気代が発生いたします。
 商店街振興組合では、会員の皆さんから集めた商店会費でイベントの開催や集客活動を実施しております。
 
 ……マジか。
 やっぱりこんなに取られるんだ。
 俺はある夏の日に地域との親交のため、公園の祭りに参加した。
 ……そして、ここでとんでもないことがわかる。
 
 ヨーヨー釣り。一回五十円。安い。お金目的ではなかった。
 違う地域では他に格安のビールや飲料、たこ焼き、焼きそばなど販売している。
 まあ、祭り定番の出し物だな。
 あいにく、途中で大雨が降ったせいで中止することになった。
 その後、俺は打ち上げで、ある家に招待された。
 中に入ると中には寿司がある。ビールもたくさんある。
 
 え……何これ?
 どこからのお金なの?
 もちろん町会費である。こんなもんに使われているのか。
 だから高いのか!
 一気に冷めた。
 せめてラーメンにしろよ。費用も五分の一にはなるだろ。そもそもこんな打ち上げなんかいらない。
 もしやりたいなら実費でやれ。
 俺も寿司を勧められるがとても食べる気にはなれない。
 町会費だって? 一部の大人の飲食費にしているだけじゃないか。
 ミニ政治家の誕生である。
 こんなところでも不正があったのか。
 だいたい町会費が正しく使われているなんて確認のしようもない。
 例え、今年の歳出と予算を並べられてもそこに謎は多い。
 領収書でも貼れって。
 
 例え、それが不要なものに金が使われていても町長とその幹部のような人間たちで固められているため、俺が何を言おうとも意味は持たない。
 あー、どこも好き放題やってんなー。
 そうか、俺や皆が払う金はこう使われていたのか。ガッカリだぜ……。

 商店街には年に一回祭りがある。
 三日続けて行われる。いろいろな夜店が並ぶ。
 小さい子がお店番に立ち、飲み物やからあげなどを売っている光景は実にかわいらしいものだ。
 仮にどこかのおっさんが同じ出し物をしていたとして、おそらく皆がこのかわいらしい子から買うだろう。
 子ども効果は高いものだ。俺も別に食べたくなかったが、思わずいろいろ買っちゃおうなんて考える。
 利益を優先するどこかの祭りとは違う。
 そういう祭りだと、金魚すくいをするにも一回三百円だ。こちらでは百五十円〜二百円。さすがに百円はないか。
 スーパーボールすくいは原価が低いためか百円だった。
 少しやりたい気持ちがあったが、この歳になると無理だ。子どもの波をかき分けておっさんが割り込む勇気などない。おっさんが参加することは迷惑行為でしかない。
 飲食物は基本的に安い。
 また、花屋では一円落としいうシンプルなゲームでありながら、景品がサボテン、その他諸々となかなか渋いものがあった。景品でなく、普通に買いたい。
 
 やや高額のダーツゲームがあった。一回五百円。
 しかし、商品が豪華。
 こういうのはどうかと思う。
 そして、ダーツのプロみたいな人が商品を根こそぎ持っていくのは、それこそどうかと思う。
 
 名物は三日の最終日に行われるカラオケ大会。
 誰でも参加OKだ。
 一か月前に事前に登録する。二十名前後で締め切られるので参加したければ早いほうがいい。
 また、早い者勝ちなので早々に登録することが必要である。
 審査などはない。どれだけ下手でも事前登録さえすれば参加できる。
 このカラオケ大会、景品がすごい。というか、でたらめだ。
 一位が三万円、二位が二万円、三位が一万円。
 賞金だけで六万円も出る。
 参加費は商店街から各店の商品、もしくは割引券などがもらえる。
 参加する年齢層は二十代からがほとんどだ。四十、五十代ぐらいの人が多い。性別は男女同じぐらいの数がいた。
 さて、このカラオケ大会に俺も参加することにした。
 カラオケは学生時代のときから好きだったので、こういう機会があれば一度、人前で歌ってみたいと思っていた。
 事前登録する場所はなぜか靴屋。
 靴屋の店主に名前と歌う曲名を告げる。一応、第二候補の曲名まで決めておく必要があった。
 大会当日に最終的に参加を確認する電話がかかってくるらしい。
 予約をしてから俺は週に二回ほどカラオケに行き、練習した。もちろん一人カラオケである。
 
 当日、俺はかなり緊張していた。
 大会が始まる一時間ほど前にある拠点に集まり、番号札を受け取る。予約登録を行った順番通りに本番で歌うらしい。
 俺の番号札は三番。かなり早い。しかし、この順番、かなり良かった。俺はあまり長い間緊張するのは嫌だったからだ。どうせなら早いとこ歌って、後は他の参加者が歌うのをゆっくり聞いて楽しみたかった。
 カラオケ大会が終わってから店を開けるつもりだった。
 店のシャッターには夜の二十時頃に開けますと手書きの貼り紙をしていた。
 昼は一人、カラオケボックスで歌っていた。
 少し声を出しておかなければ本番に声が出ないかもしれない。
 そういう考えから二時間ほど一人でカラオケに行ったのだが、これがまずかった。
 通常、複数の人間でカラオケに行くと、待ち時間が当然生じる。
一人で行くとその休憩時間がない。俺は休憩することもなく、二時間歌いっぱなしだ。異変を感じたのは歌って一時間後ぐらいだ。
 喉が痛い……?
 当然といえば当然だった。
 俺が選択した曲はかなり激しい曲だった。シャウトも多い。
 まずい……。
 このままカラオケ大会に参加しても賞どころか声すらまともに出ない。
 
「あー、あー……ん……」
 どうもしゃがれた声だ。低音、高音の幅が非常に狭い。どれも一定の高さになってしまう。何より喉が痛い。多少、無理して声を出すと咳こんでしまう。
 ちょっとずつ声を出すべきだったか、いきなり本気で歌ってしまった。
 この喉の痛み、一時間や二時間でなくなるものではない。
 ゆっくり歌って喉の調子を戻そうとするが悪化する一方だった。
 俺は二時間で予約しておいたカラオケを三十分残したまま出ることにした。
 失敗。ああ、こんな喉で参加しなくちゃいけないのか。これはただの恥さらしにはならないか。
 参加したくない。しかし、一か月前から登録したものである。
 主催者も急なキャンセルは望んでいない。
 会場には参加する人の名前と曲名がでかいボードで、でかでかと書かれていた。
 途中、びびって逃げただなんて思われるのは嫌だ。
 もう高得点を出すつもりはない。ただ、歌いきればそれでよかった。
 ギャラリーには聞き苦しい歌を聴かせることになるだろう。
 ええい、どうにでもなれだ!
 俺は自分の出番が来るまでなるべく声を出さないでいた。
 少しでも喉の回復を待った。
 
 そして、カラオケ大会が始まる。
 ギャラリーは集まっている。百人以上いた。去年と同様かなり盛り上がっている。
 祭りの最終日のイベントだ。それはそうである。
 一人目、二人目とほぼ時間通りに進行する。さあ、いよいよ俺の出番だ。
 ステージに立つ。その表情は疲れ切っている。
 歌う前なのに、歌ったあとのような疲労感。
 ステージに立つと視線が上がる。皆がこちらを見る。
 俺は視力が悪いので、その様子が何となくでしかわからない。不幸中の幸いか。
 人の目を気にしようとも、ぼやけて見えない。
 イントロが始まる。もう後戻りはできない。
 
 俺は歌う。喉よ! 治っていてくれ……。
 しかし、その願いは届かず、最初からダミ声だ。
 歌いながらこんなことを考える。
 これは歌ではない。うめき声だ。
 このまま最後まで歌い続けなくてはいけないのか。
 奇妙な声にギャラリーも恐ろしいぐらい静まり返った。
 俺の側にいた司会者もどういう顔をすればいいのかわからないらしい。
 ああ、もうどこかに消えたい。精神的な拷問だった。
 五分ほどでこの惨劇は終わった。
 もう早くステージに下りて帰りたい。
 思い出したかのように司会者が記念品を俺に手渡す。
 衣服屋の割引券だった。おそらく普段、こういうのは発行していないはずだ。
 普通にこれを手に入れたのなら肌着にでも交換してもらうのだが、今、これを使うとカラオケ大会で呻き声を上げていた参加者だと丸わかりだ。
 それにあれだけ場の雰囲気を乱してしまったのだから、この券を使うのはあまりにも申し訳ない。
 結局、この券を使うことはなかった。
 残りの参加者の歌を楽しむ予定だったがもうその気力もない。
 俺はそのままトボトボと店に戻り、今さらだが開店した。
 祭りだったので、少しはお客さんが入る。
 店前にそれらしい夜店を出すこともできたが、そんなこと考えもしなかった。
posted by サイコー君 at 00:21 | Comment(0) | トレカ屋開業(自作ラノベです) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

トレカ屋開業 その27

  4 チンピラによる脅し

 シャッターに絵を描いていたタイミングで一人のお客さんがゲームソフトの中身が違うとクレームを言ってきた。
「これなぁ、カセットと中身がちゃうやんけ?」
「へ……どういうこと?」
「だからよ! 中身が違うんだよ! ここじゃあんたも見られたくないだろ。店の中に入ろうや」
 ……そりゃ、脅すほうは外で脅すわけにもいかんわな。
 俺は閉めているシャッターを開けて、二人を通した。
 しかし、中身が違うだなんて、そんなことがあるのか?
 ソフトはカートリッジ。カセットというのか、昔の作品である。
 確かに表のシールさえ貼り替えれば中身は何かわからない。
 ちなみにこのソフトは確か、他店のゲームショップか、オークションで手に入れたものだ。
 誰が、何の目的でやったのだろうか。
 確認すると確かに中身が違う。
 しかし、向こうのほうで何か細工された可能性もある。こんな因縁つけてくるぐらいだ。だが、確認のしようがない。
 返金対応するが、それでは不十分だと言い張る客。
 もうこれは客ではない。ただの因縁だ。
 二人で、「ああ、コラ。誠意を見せんかい!」と脅す。
「誠意?」
「この店のソフト、何本かもらっていくぞ」
(……なぜそうなる?)
「お前な、返金して終わりじゃないだろ。ここまで来る労力を考えれば、返金して終わりってわけにはいかねえだろ」
(いやいや、普通終わるだろ。お前の買ったソフト六百八十円じゃん。何で何倍もの価格もするゲームを渡さなきゃならん)

 チンピラどもが店のゲームソフトを物色しだした。
 四千円ぐらいのものを。しかも三本!
 しかもこのチンピラは後日、このソフトを買い取りしてほしいと言って来るではないか! 何を考えてんだ? このチンピラ?
 無理やり脅し取ったゲームを同じ店で売るなよ。意味がわからんにも程がある。
 それは買い取りでなく、返品するべきだ。返すべきである。
 買ったのでも、借りていったのでも、もらったのでもない。脅して奪ったものだ。
 
 こういうときはどう対応すればよかったのだろう。
 俺は何度も謝るが向こうは一歩も引く気はない。
 ゲームソフトでこんなに怒るなよ。
 いや、こいつらは怒っているわけでないのだ。脅して、奪いとる。それだけしか考えていない。
 今回の非は残念ながらこちらにある。
 俺は買い取り、仕入れをしたソフトの起動チェックはしていない。
 また店員が俺一人だけというのも辛い。
 こいつらにかまっていては他に接客ができないではないか。
 普通の店ならスタッフは複数いる。うちの店に他のスタッフがいれば、おそらくこいつらもそう強気に出ることはなかっただろう。そこを突かれた。
 警察に連絡しても逆恨みされる可能性もある。
 何にしろ、こんな腐ったような店でもイメージがあった。イメージダウンはなるべくなら避けたい。
 あとは、純粋に面倒だった。
 脅されてゲームを数本盗られるほうが手間は少ないと判断した。
 結果、このどうしようもない奴らに脅されて、店の中では比較的高いソフトを三本ほど盗られた。
 帰りの際、こいつらは笑顔で店から出て行った。なめんな。
 
 また、このグループは非常に厄介だった。
 もう書くのも億劫になるが、買い取ったソフトが全て起動しないという確信犯的な出来事があった。
 大手のゲームショップでは買い取りのときに、起動時の画面まで確認しているのだろうか。
 俺が前にバイトで勤めていた古本屋では確認はしなかった。唯一したといえば、ゲーム機本体だけだ。
 例えゲームを買い取りで三十本持ってこられても、三十本起動チェックすることは困難である。
 また中身が違うということも確認しなければならない。
 基本的には動かなくなったソフトは買い取りに持ってきてほしくはない。当たり前のことなのだが。
 というわけで、買い取った全てを処分した。
 ……何ともアホらしい。
 それで俺はありがとうございましたなんて、言っていた。
 滑稽である。自分がみじめだ。

  5 続々とトラブルが……

 ある日、レジの鍵を盗られてしまった!
 レジを開けるには鍵が必要だ。
 毎回、俺のポケットにその鍵を入れておくのだが、連続して接客が続く場合、鍵をレジに挿しっぱなしにすることもあった。
 お客さん側からレジまでの距離は近い。俺とレジとの距離とほとんど同じだ。
 ある子どもがふざけてカウンターに乗り出した。
「おいおい、やめてくれよ」という感じで叱る。
 しかし、叱り方が足りなかったのか、次第にエスカレートしていく子ども。
 叱るという行為。俺はこれがどうも苦手だった。
 店の対象年齢が主に子どもだったので、こういうやり取りはけっこうある。
 俺も接客以外は本当に暇なので、新聞に載っているような世間話や、地元のイベントなどに関しての話しをすることもあった。
 そのような中、俺が油断しているとき!
 油断というか、レジから目を話した隙に誰かがレジの鍵を持って行った。
 俺はしばらくして気づく。
 
「あれ……これ、誰か持っていった、鍵?」
 知らないと周りの子どもが言う。
 あれ? 俺、どこかにしまったっけ?
 俺はポケットの中、地面、ここ数分の間に触った場所などいろいろ探してみるが見つからない。
 あれ? 本当にないぞ。これ、けっこうやばくね?
 しばらくして何人かお客さんが来る。
「ごめん、ちょっとレジ壊れて、お釣りないわ……」
 レジの鍵がなければ営業できないのと同じだ。
 俺はすぐ店を閉め、店の前でぼーっとする。
「……明日からどうしようか……最悪だ」
 すると一人の女の子が、「わたし、見たよー。○○ちゃんが持っていったー」と言った。
「え? ホント?」
「ホント、ホント。でも注意できなかった」
「何で?」
「まさか本当にするなんて思わなかったもん。でも、このまま放っておくのも、友達として嫌だから、おっちゃんに言ったの」
 ああ、この子は友達が悪いことをしたことから逃げ出すのは反対なんだな。これが女の友情というやつか。確かにこの子の言う通りだ。
 その子から鍵を取り戻してとその女の子に頼む。
 レジから鍵を抜くだけならいい。まだ許せる。
 だが、本当に持って帰って行ってはシャレにならない。
 もう、小学校まで乗り込んで、校長先生にでも言ってやろうか。
 俺はその女の子を信じて待った。
 
 すると、本人が来るのだが、何と鍵を郵便ポストに入れたというではないか!
 最悪の展開。まさかここまでやるとは。完全に迂闊。
 幸い、その子の親が郵便局に電話して鍵は戻って来た。
 で、鍵は二つ付きだった。
 もう一つは違う男の子が持っているという。
 こちらのほうは本人も親もとんでもないやつで、謝罪の一つもない。
 そもそもこいつが女の子に話しを持ちかけ、鍵を盗ったということだ。
 鍵は一つあるので、レジを開けるには困らない。
 次は慎重に扱わねばならない。
 この日は本当にすぐにでも店を辞めてやろうかと思った。
 子ども相手に商売することは本当に難しい。
 一人で店をやることがいかに困難か知った。

 それにしても根本的な問題なのだが、ゲームの買い取り値が全くわからない。
 前にゲーム屋のサイトで検索していたが、今ではそれがない。そういう設備を搭載していないからだ。
 バーコードのコードの登録すらしていないのだから仕方がないと言えば仕方がない。
 俺が子どもの頃は古本屋がゲームの売買をすることがあった。
 俺はそれをイメージしている。しかし、当時と比べてゲームソフトは多い。
 昔の感覚ではで営業ができなさそうだ。少し考えればわかることだったが、今にきてようやく避けては通れない道だと思った。
 ゲームの買い取りは中古ゲームを販売する上でとても重要。これが一番の収益になる計算だった。
 二百円で買い取ったゲームソフトを千円で売れたとしよう。これぐらいの価格差ならそう難しくはない。
 約五倍の資金になって戻ってくる。
 これをおもちゃでしようと思えば、百円のおもちゃの利益が二十円だとすると、原価は八十円。八十円を五倍にするにはこの商品を二十個売らなければならない。
 どちらが簡単かというと一目瞭然だった。
 
 肝心の収益源が曖昧になってしまった。
 これはまずい。せっかくのチャンスを不意になってしまう。
 携帯電話で毎回検索することにした。参考するサイトは某有名なショップ。
 パソコンを中心にゲーム、電気製品を扱っている。買い取り相場もまめな更新でいつも新鮮な情報を提供してくれる。
 だが携帯での検索は時間がかかりすぎた。
 何より、店員が書携帯電話をするさまはお客さんにとって不快でしかない。
 おまけに携帯電話の通信費がバカ高かった。
 一度の検索で百円かかる。五本の検索をすればそれだけで五百円かかる。これはきつい。それならお客さんに五百円上乗せして買い取りしたいものだ。
 というわけで、勘と感覚で買い取り値を決めた。自分でも最悪なシステムだった。
 
 しかし、お客さんは買い取りを承諾してくれることがほとんどだった。お客さんには悪いが何とかなるもんだ。
 中には製作したプラモデルや、DVDの買い取りの相談もあった。
 プラモデルはプロみたいな出来で、いろいろカスタムしていて、まるで芸術品のような出来だった。
 結局、これは買い取りしなかった。
 お客さんと俺の価値観が違った。代わりに未開封品のプラモの買い取りをした。
 パーツがないのもあった。何が足りないのかこちらからでは判断できない。お客さんの言うことを鵜呑みにするしかない。
 しかし、未開封だと言っても袋が開けてあったケースもある。
 DVDの買い取りも雑だった。一枚二百円で一律買い取りだ。
 二百円なら例え店で売れなくても資金的なダメージは少ない。また、転売することもできた。
 後になって調べると数百円で買い取ったDVDが三千円で売れるものもあった。
 そのときはさすがにお客さんに申し訳なかった。
 中にはとても強烈な汚れがあるものもあった。
 せっかくなので買い取ったが、そういうのはたいてい画面に映らない。
 
 買い取りに持って来るのは俺が見たことものないものばかりだった。
 買い取りというのは面白い。しかし、それ以上に難しいことを知った。
 昔、古本屋でバイトした経験はあっても、それから四年ほどたっている。この四年で世間もだいぶ動いた。
 俺の知識など古くて使い物にならなかった。
 もう何でも屋のようになっていた。
 どんどん商品が増えるのは嬉しい。だが、方向性が見失ってきた。もう少し、スペースがあればもっといろんなものが置けるのに。
 やはりいつも問題になるのは空きスペースであった。
 早くからパソコンを導入すべきだった。ケチったのが痛い。
 だが、もう資金も不足していたので、買い取り価格を調べるだけで、毎月の通信費に四千円かけるのにはためらった。
 
 とにかくお金がない。
 現金も五万円ほどしかなかった。
 怖かったのがゲーム機本体の買い取り。
 これは数万円の買い取り価格になるのであまり持って来てほしくない。
 相場より低く買い取って、すぐ他店で転売する手もあったがあまりにもやいらしい。
 間違って海外製のゲーム機本体を、正規の買い取り価格で買い取ったこともあった。
 素人丸出しである。
 ゲームを扱うわりにゲームに関する知識があまりにも足りない。
 在庫を保管するスペースもない。小資金で、一人で店を開いてももったいないことが多々ある。
 チャンスをフルに活用できない。
posted by サイコー君 at 00:20 | Comment(0) | トレカ屋開業(自作ラノベです) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする


福袋 | 福袋 | 通販ショップの駿河屋

現在開催中のキャンペーン|通販ショップの駿河屋


ゲーム・古本・DVD・CD・トレカ・フィギュア 通販ショップの駿河屋
Pi.jpg