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駿河屋の福袋

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あんしん買取がマジで安心! ブログに移りました。

2014年10月26日

スルガニャン物語2(4)

第二章 大事件が起こる

  1 取引停止メール

 俺が管理人のブログ、『駿可屋がマジで最高!』にたびたびコメントを書いてくれる人がいる。
 ハンドルネームは『ふりかけ』さん。
 今日もコメントが書いてあった。どれどれ……。

『サイコー君。こんにちは。前に買ったCD箱なんだけど、ベックオフで千五百四十二円で売れたよ。四百八十円で買ったから千六十二円の利益だ。こんな素晴らしいものを売ってくれて本当に感謝しているよ。いつもありがとう。スルガニャンにも言っておいてねw』

 こんな温かい言葉をもらっている。
 元気そうだな、ふりかけさん。
 彼は対人恐怖症というやつで、外へ出ることに強い不快感を持っている。だからもっぱら過ごす場所は家の中だ。
 収入はアフィリエイト の JANetSagoooワークスをして月収約六万円だという。
 しかし一人暮らしをしているため、それだけでは家賃と光熱費でほとんどが飛んでしまう。
 彼は駿可屋の福袋を転売することで食費を得ていた。
 ブログに書かれるコメントは、すべて駿可屋への感謝のメッセージだった。
「――サイコー君、なに見てるんだにゃん?」
 おっと、事務室で休憩しているところにスルガニャンが部屋に入ってきた。彼はそのままノートパソコンを置いているテーブルの上に乗った。
「ブログのコメントを読んでいるんだよ。ほら、見てごらん。駿可屋でお買い物したのが嬉しいってさ」
「うにゃ〜、こういうコメントを読んだらおいらたちも幸せな気分になるんだにゃ〜。嬉しいにゃ」
「だよね、スルガニャン」
 ――ある日、事件が起きた。
 ふりかけさんがブログに書いた内容が信じられない内容だった。

『サイコー君、こんにちは。……やられたぜ。今回もベックオフに駿可屋で買ったCD箱を送ったんだ。そしたらよぉ……取引停止メール? こんなのが届いたんだよ。メールは一方的な内容だった。もう俺とは取引しないんだってよ。その理由が、同じ商品を何度も送ってくるからだって。そんなことでよぉ、取引停止なんてさせられるのかよ? こっちはお客なんだぞ。駿可屋はお客を大事にしてくれる……そうだろ? それは俺もよく知っているさ。でもベックオフは違う! 見下してるんだよ、俺たち客をよぉ。悔しいぜ、サイコー君。俺は一体どうすりゃいいんだ? このままじっと指を咥えているだけなのかよ? ベックオフの言いなりになるしかねぇのかよ? 駿可屋の足元にも及ばないくせに! ……あぁ、腹が減った。俺の食費は転売で稼いだ金だ。その資金源が絶たれてしまった。腹が減って死にそうだよ』

 ……なんてことだ。
 こんな……こんな悲劇がっ! 現実に起こるとは。
 とても信じられなかった。ふりかけさんはただ買取の品を送っただけだ。それなのに取引停止メール? ……信じられない。もしかしてふりかけさんの妄想話か?
 いや、そうじゃない。彼がそんなことをしてなんのメリットがある? だからこの話は事実。
「とにかく、腹が減っているようだ。すぐに駿可屋の食品を彼に送ろう! お菓子や缶詰、ラーメンもあったはずだ!」
 翌日には食料が届くはずだった。常連のお客さんだったから住所は駿可屋に登録してある。
 ……しかし、一日が過ぎてもブログにふりかけさんからのコメントはなかった。
「ふりかけさん、ちゃんと食べてるかなぁ」
 念のために俺はもう一度、彼に食品の詰め合わせを送ろうとした。――が、その最中に運送業者から電話が入った。
「はい、涼野ですが。……はい。え? それは本当ですか?」
 自分の耳を疑った。宅配便はふりかけさんに届いていなかった。
 正確に言えば、彼は受け取ることができなかったのだ。……もうすでに死んでいたから。
 ダンボール箱は駿可屋に戻ってきてしまった。
 もう二、三日早く、ふりかけさんがブログに書いていてくれたら。
 宅配便に任せるのではなく、電車に乗って直接食料を渡していたら。
 彼が餓えて死ぬことはなかったかもしれない。
 俺はブログを確認した。すると、まだ読んでいないコメントがいくつかあった。読んでみよう。

『サイコー君……見ているか? 俺ぁ、もう限界だ。腹が減って……キーボードを打つこともままならない。おそらくこれが最後のコメントになるはずだ。俺は特に社会になにか貢献したわけじゃねぇ。でも俺の人生は最悪ではなかった。それは駿可屋に出会えたからだ。駿可屋で買い物してるとき、俺は幸せだった。少ない金で大量に物を買える。小さな頃からずっと貧乏だったんだ。でも駿可屋だったら少ないお金で大人買いができる。中古福袋ジャンルいろいろ! 実用書 300冊セットを買ったときは驚いたぜ。ダンボール箱が三十箱ぐらい届くんだ。駿可屋、頭おかしいんじゃねぇか? って思ったよ。ドライバーの人も、こいつなに買ったんだ? って首を傾げてよぉ。それでも俺は楽しかった。福袋セールでは必ずと言っていいほど、サーバーダウンしたよなぁ。買いたいのに買わせてくれない。このときも駿可屋は頭がイッちまってると思ったよ。どれも楽しい思い出ばかりだ。……死んだらよぉ、もう駿可屋で買い物ができなくなるなぁ。それが唯一心残りでよぉ。まだ死にたくねぇなぁ。あのクソ、ベックオフ! あそこが取引停止なんかしなかったら俺はまだ……そ、そろそろ限界だ。腹が減りすぎると意識が朦朧としてくるんだなぁ。初めて知ったよ。最後にサイコー君、あんたに頼みがある。俺はたぶん死ぬ。死んだらカタキを取ってほしいんだ。天下を取ってほしい。駿可屋ならそれができる。俺を死に追いやったベックオフに言ってやれ。お客をぞんざいに扱う企業は……いつか滅ぶってな! ……眠くなってきた。いつか、あの世で会おうぜ、サイコー君……』

 このコメントはふりかけさんの死ぬ間際に書かれたものだろう。
 その内容からベックオフに対する悔しさ、憎さが痛々しいほど伝わった。
「サイコー君……」
 一緒にブログを見ていたスルガニャンも悲しんでいた。俺はスルガニャンの背中をゆっくりと撫でてやった。
「残念だったね、スルガニャン。駿可屋のファンが一人、命を落としたんだ……」
「うにゃ……うにゃーん……」
 スルガニャンはとうとう泣いてしまった。俺もまだ顔さえ見ていないふりかけさん。
 彼の人生。彼がどうやって駿可屋に出会ったのか。彼はどんな顔して笑うのか……なにもわからないまま死んでしまった。
 もうそれらを知る方法はない。いつか機会があれば直接会おうって約束していたのに。
 ふりかけさんは殺されたんだ。ベックオフに。
「くそっ! ベックオフッ!!」
 俺は机を思いきり叩いてしまった。その反動でスルガニャンがテーブルから落ちそうになる。
「スルガニャンっ?」
 スルガニャンは猫らしく華麗に着地。……ふうっ、猫でよかった。もし犬だったら頭から落ちていたかもしれない。
「うにゃー、サイコー君。ものに当たるなにゃ」
「ごめん、スルガニャン」
 スルガニャンは俺の膝の上に乗った。
「サイコー君、ベックオフとはなんにゃ?」
「え? スルガニャン、ベックオフを知らないのかい? 同じ業界なのに?」
「うにゃあー……?」
 ちょうどいい。スルガニャンにライバル会社の情報を伝えておくか。
 そういうことを知らない無邪気なスルガニャンもかわいいんだけど。

『ベックオフ』
 事業内容:中古書店「ベックオフ」の展開。新規中古業態の開発や運営など。
 資本金:約三十六億円
 従業員数:正社員千名。パート・アルバイトが約八千名。
 いっちょまえに東証一部に上場してやがる。

『古木市場』
 事業内容:古本、家庭用ゲームソフト・ハード、トレーディングカード、CD、DVDなどの販売および買取。インターネットサイトの運営。
 資本金:十一億六千万円
 従業員数:正社員三百名。パート・アルバイト約千名。

『ネットエフ』
 事業内容:インターネットサイトによる中古の本、CD、DVD、ゲームソフト、その他の商品の買取と販売。
 資本金:四億円
 従業員数:三百名。

 ちなみに駿可屋だと……。
『駿可屋』
 事業内容:メディアリサイクルサイトの運営。
 資本金:四千万円
 従業員数:正社員五十名。パート・アルバイト約百名。

「――おいらのところは資本金四千万円かにゃ。けっこうあるにゃ」
「貴殿野郎がFXをしなければプラス六百五十万円だったんだけどね。まあ、あの人のことはもういい。今度やったらマジで警察に突き出そう」
 古本屋業界――本だけの取り扱いじゃないけど。しかし、いずれも最初は本のリサイクルをメインに始まった会社だ。
 その大手であるベックオフ。資本金はウチの八十倍以上だ。
 ベックオフの取り扱う商品は主に本。本だけでなぜここまで大きく成長することができたか? それは千店舗近いチェーン店があるからだ。
 仮に一つの店舗で毎月百万円の利益を出したとする。全店舗合わせれば十億円も利益だ。
 実際は採算の取れない店舗もあるはずだから、こんな単純な計算ではない。
 えっと……あ! あった。
 ベックオフの四季報を確認する。第1四半期決算の経常利益三億円。大したものだ。
 ふりかけさんはこのベックオフに、駿可屋なら勝てると言った。
 果たして勝てるのか? 相手はとんでもなく巨大だ。
 しかし、勝つ見込みがまったくないとは限らない。ベックオフは必ずしも安く商品を売っているわけではない。駿可屋と比べればずいぶん高い。
 俺が駿可屋に入社する前のことだ。同じ商品なのにベックオフと駿可屋の価格差に驚いたよ。
 俺は駿可屋でデスノートを三円で買ったことがある。
 そんなこと今言っても誰も信じてくれないだろうけどね。でも本当なんだ。思わず詐欺サイトかと思ったぐらい。
 今となっては落ち着いた値段の設定となっているが、それでもベックオフよりはるかに安い。
 さらに駿可屋にはタイムセールやまとめうりもある。扱っている商品数、ジャンル、価格。それらで駿可屋が負ける要素は一つもなかった。
 ではなぜ多くの人がベックオフで本やゲームを買うのか? ……その答えは単純。ただ、知らないだけだ。
 買取価格もクソ安い。わざわざ車で店舗に行って数百冊のマンガを買い取ってもらったが千円にも到達しなかった、なんていうのはよく聞く話。
 駿可屋のあんしん買取か、かんたん買取に出しておけばその数倍になったものを。
 俺も駿可屋の良さをブログで発信しているが、そこにたどり着く人なんてごく一部だ。
 ベックオフは長年の歴史があるし、テレビコマーシャルもしている。つまり認知度の違いだった。
 それだけでお客様は駿可屋ではなく、ベックオフに足を運ぶ。
 俺からしてみれば、その行為は愚かでしかない。もったいない! お金をドブに捨てるようなものだった。
 駿可屋は業界で唯一、高く買って安く売ることを実践している。
 大概のショップはその逆。安く買って高く売っている。
 同人誌を買うにはどこがいい? とらのあな? まんだらけ?
 送料はいくらかかるんだ? 中古の扱いはあるか?
 ヤフオクで買うのもありだ。でも欲しい商品がないときは? あり得ないほどの価格を設定されていたらどうしようか?
 エロゲーはどこで買う? コムショップか? それともソフマップ? はたまたヤフオクか?
 じゃあ同人誌とエロゲーをまとめて買いたいときは? ……そんなすべての悩みを解決できるのが駿可屋だ。
 駿可屋ほど必要とされ、愛されているショップはないだろう。
 そしてなによりも駿可屋にはスルガニャンがいる。こんなかわいい猫がベックオフにいるか? ……いない。
「スルガニャン!」
「ん? ……なんにゃ?」
「スルガニャン!」
「だから、なんにゃ?」
「スルガニャン!」
「お前、うっとうしいにゃ。黙っとくにゃ」
 会話のできる猫だ。サングラスがこんなに似合う猫なんていない。とにかくラブリー。
 駿可屋は業界ナンバーワンだ!

「ごめんね、スルガニャン。君の声が聞きたかったから、つい何度も呼んでしまったよ」
 とうとうスルガニャンは俺を無視した。こういうところもかわいいんだ。
 さて、そろそろ真面目に考えるか。どうやったらベックオフに勝てるか。
 サービス面ではまったく負けていない。負けているのは知名度だけ。……とりあえず敵のネットショップでも見てみるか。
 ベックオフのネットショップ。その名はベックオフ・オンライン。
 ここにふりかけさんは買取の依頼を出したのだろう。でも拒否された。
 その理由は同じ商品をたくさん送るから。……おかしくないか? たったそれだけで取引を停止なんてするだろうか。
 どこかにヒントがあるはずだ。俺はブログで過去のコメントをさかのぼって調べてみた。すると気になるところがいくつかあった。

『CD箱をベックオフに売ったんだけどな。わざわざダンボールを変える必要なんてねぇ。すでにピッタリのサイズなんだからよ。送料もベックオフにとっては最小に抑えられていいんじゃねぇかな。ってなわけで、駿可屋のダンボールで送るぜ』

『へへ、十箱まとめて送ったら一万五千円にもなった! ベックオフやるじゃん! CD箱は一つ四百八十円だからかなりの儲けだな。ありがとう、駿可屋とベックオフ』

『一円買取もあるけど、千円買取なんてのもあるな。十パーセント買い取り増しのクーポンはホントありがたいぜ。一円買い取りの商品は二円になる。百パーセントアップだ』

『ネットエフにも売ったがこっちは安かった。Tポイント目当てで一箱ずつ売ればまあまあの利益になるが、まとめてベックオフに送ったほうが効率がいいぜ』

 ふりかけさんのコメントをまとめてみると、ベックオフは駿可屋の存在をたぶん知っている。
 駿可屋のダンボールで送ってきたことが気に障ったのではないだろうか。
 CD箱は駿可屋の福袋の中でも一番コスパのいい商品だ。
 ヤフオクに出すのもよし。ベックオフやネットエフに送ってもよし。簡単に転売できて、利益が出るサービス品。お客様に現金を渡しているようなものである。
 CDの仕入れは同業者からの業者買い取りがほとんどだ。この時代、CDなんて高い値段だとそう簡単には売れないからな。だから中古CDが軒並み潰れている。
 その倒産時の在庫を駿可屋が買い取っている。大量のCDは廃棄するだけでお金がかかるからな。業者にしてみれば引き取ってもらうだけでもありがたいはずだ。
 駿可屋はそれらを、ほとんど送料の負担だけで販売している。儲けなんてない。お客様の笑顔が俺たちの報酬になる。
 値段を設定したのはスルガニャンだった。これは画期的だった。
 CD箱のコスパの良さが、いい宣伝になった。これだけで駿可屋利用者が二割も増えた。
「この安さにベックオフは恐怖したんじゃないかな? 数々送られてくる駿可屋のダンボール。自分とこの倉庫が駿可屋のダンボールだらけになる。同業者からのダンボールで埋められてんだ。向こうにしてみたら、いつの日か業界の首位を奪われる危機感があったのかもしれない」
「でもベックオフは、元々はウチの商品だったCD箱の中身を高くして売っているんだにゃ? だったらベックオフにもメリットはあるように思うんにゃけど……」
「もちろんさ。それで利益も出してるはず。……となると原因はこれだな。ベックオフはスルガイヤーを嫌っている。これしかない!」
「スルガイヤー……つまり駿可屋でお買い物をしてくれる人たちのことにゃ?」
「そうだよ。たぶんこう思ってるんだ。『お前はスルガイヤーだろ。だったらベックオフで買い取り申し込みなんてするんじゃねー。なんでライバル店で買った商品をウチで買い取らなくちゃいけないんだ。スルガイヤーなんて客じゃない。よし、取引停止メールを送って、今後一切関わらないようにしよう』……これが真相だろう」
「にゃに? お客様を差別する気かにゃん? 駿可屋は駿可屋。ベックオフはベックオフ。お客様がどこのショップを利用しようと関係ないにゃん。それを駿可屋を利用しているからって……あんまりにゃ! ベックオフはあんまりにゃ!」
 お客様を大事にするスルガニャンが怒るのも当然だ。俺も怒っている。
 スルガイヤーの痛みは駿可屋の痛み。俺の痛みだ。
 マジで攻略してやるぜ、ベックオフ……。




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2014年10月25日

スルガニャン物語2(3)

  3 スルガニャル子の一日

 この日の夜、俺は疲労しきっていたお辞儀君に体を休めてもらうため、早いとこ退勤させた。
 今は貴殿野郎と数名のスタッフが懸命に買取作業をしている。
 貴殿野郎には連日徹夜で働いてもらうのもありかな、と思っている。
「……もう九時半だよ。まだ帰ってこないのか、スルガニャル子さん」
 事務室には俺とスルガニャンだけだった。
「もしかして……もしかしてにゃん。嫁の奴、他に好きな男でもできて……」
「浮気してるかもしれないって? スルガニャル子さんは猫じゃないか。浮気のしようがないじゃない」
「そうかにゃー? 事故の可能性もあるし、どっちみち心配だにゃー」
 とにかく無事に帰ってきてほしい。そう願うばかりだ。
 時刻が十時になって車が走る音が聞こえた。
 窓から外を見るとタクシーが一台、会社の下で止まっている。
「たぶんスルガニャル子さんだ。帰ってきたんだ」
「うにゃーっ!」
 スルガニャンは元気よく一階まで駆け下りた。俺もスルガニャンに続く。
 一階に着いたとき、スルガニャル子さんはタクシーから降りていた。俺とスルガニャンがここにいることが意外だったらしい。
「にゃるっ? あんたっ?」
 見た目はスルガニャンとほとんど変わらない。スルガニャル子さんのほうがちょっと小柄だった。
「お前、こんな時間までどこほっつき歩いていたにゃ?」
「べっ、別にどこでもいいにゃる」
「いいわけないにゃ! おいらがお前のことをどれだけ心配したか……お前にはわからにゃいのか!!」
 にゃあにゃあ言いすぎて、このまま二匹が本当の猫になるではないかと心配だった。
「あんたっ……!」
「おみゃえ〜っ!」
 抱き合う二匹。そこに俺が間に入るのはあまりにも無粋……このままここを去るか。
 違う! そうじゃない!
 スルガニャル子さんが無事だったのはいい。問題は買取金額をなぜ〇円にしたかだ。
「スルガニャル子さん! 聞きたいことがあるんですけど?」
「――ん? なんにゃる? ……っていうか、お前たちなんでいきなり帰ってきてるにゃる? 帰ってくるなら連絡の一つぐらいでも入れるにゃる」
「そりゃあ駿可屋の買取が〇円になったとか聞いたら、飛んで戻ってきますよ。あなたがそう指示したんですね?」
「ん〜、まあそんなところかにゃる」
「なんでそんなことするんですか? 駿可屋はお客様のことを第一に考えるショップなんですよ。だからここまで会社として成長した。駿可屋とお客様は長年かけて築いてきた信頼があるんです。なぜそれを潰すような真似を?」
「言わなきゃならないかにゃる。それには深〜いワケがあるにゃる」
 深いワケだって? ……どういう意味だよ、それって。なんかまずいのか?
「ほれ」
 そう言って、スルガニャル子さんは右の前脚を高く上に伸ばした。しかしまったく意味不明だ。
「ほれほれっ♪」
「あの……なにが言いたいんですか?」
「わからないにゃるか。見ろにゃる。この引き締まった前脚を。少し前までは無駄な肉がついてかっこ悪かったにゃる」
 そんなの別にどうでもいいです、と言いかけた。で……なに? なにが言いたいの?
「今度は後ろ脚もしてもらうにゃる〜♪ 大満足だにゃる。これも亭主を喜ばす嫁の優しさにゃる」
「待って……なにを言ってるの? さっきから? 全然わかんないんだけど。どういうことです?」
「朝から高級エステに行ってたにゃる。猫専門の」
 エステですか。エステ……猫にそんなのが必要なのかわからないけど。でも買取とまったく関係ないじゃない。
「エステ料金は買取金額を〇円にして浮いたお金で通ってるにゃる」
「え……?」
 開いた口が塞がらないとはこのことだった。
 つまりだ、スルガニャル子さんは自分のエステ代にかかる負担を、お客様の買取金額から徴収していたわけだ。
 貴殿野郎並のとんでも行動だよ。
「お金はたくさんかかったけど、きれいになったからいいにゃる〜♪ ……にゃる? どうしたにゃるか、サイコー君。なんでそんな怒った顔してるにゃる?」
「あなたは全然わかっていませんよ。駿可屋がスタッフやお客様にどれだけ愛されているかを!」
「にゃ、にゃる……」
「エステのためにお客様を裏切る? はぁ? なに言ってんだ、あんた。なぁ、おい! この猫!」
 俺はスルガニャル子さんの首を、後ろからつまんで持ち上げた。
「にゃる〜!」
 スルガニャル子さんは脚をバタバタさせる。そんな姿を見たスルガニャンが俺にこう言った。
「なにするにゃっ? サイコー君! 嫁にそんな乱暴な扱いはしないでほしいんだにゃ! 抱っこしたいんだったら両手でそっと抱えるんだにゃ!」
「抱っこしたいわけじゃないよ、スルガニャン。スルガニャル子さんはお客様を裏切ったんだよ? 本来支払うべきお金を勝手に使ってエステに行ったんだ。そんなこと許されると思う?」
「にゃ、にゃあ〜……」
 スルガニャンは奥方に甘いんだから。
「いくらスルガニャンの奥方だからといっても許せないよ。罰としてこれからしばらくは一番安いキャットフードだからね!」
「にゃる〜っ!」
「泣いてもダメ!」

 これで買取遅延と買取金額〇円事件は無事におさまった。
 お客様へのお詫びとして、減額なしキャンペーンをやっている。正規の値段で買って、販売のときはBランクにする。これがなかなかの好評だ。
 こんなことしか俺たちにはできないけど誠実な経営を続け、ちょっとずつ失った信頼を取り戻すんだ。どれだけ時間がかかるのかはわからない。
 タイムセールの多ジャンル対象。同人誌を含むリミットブレイク。千三百円以上で送料と代引きが無料。
 これからももっともっとサービスを向上させないとね!
posted by サイコー君 at 15:39 | Comment(0) | スルガニャン物語2(自作ラノベです) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年10月24日

スルガニャン物語2(2)

  2 暴走貴殿野郎

 俺とスルガニャンは静岡駅に到着すると、すぐにタクシーに乗り駿可屋を目指す。
 駿可屋で一体なにがあったのだろうか。
 よく考えてみると俺はスルガニャル子さんの性格をよく知らない。てっきり真面目に仕事をしてくれるものだと思っていた。
 スルガニャル子さんが駿可屋に来て半年がたつ。その間、俺たちスタッフがひと通りの業務を教えたつもりだ。
 もしわからないことがあれば通販と買取チーフを兼ねる貴殿野郎に聞けばいい。
 塔子さんと由宇君が駿可屋を離れてから貴殿野郎の役職のランクも上がった。これを機に、より励んでくれることを期待した。しかし今俺の中で、ある懸念が生まれる。
 あいつ、そういや変な奴だったよな……。
 自分のことを吾輩とか言う奴だ。今まで当たり前のように接してきたが、よく考えればまともな人間が「吾輩は……」などとは言わない。
「大丈夫かにゃあ? サイコー君」
「あぁ、大丈夫だよ。なにかが起こっていたとしても俺たちで修正したらいい」
 俺も駿可屋のサイトをまめにチェックするべきだった。スルガニャンとの旅行は楽しかったし、スルガニャル子さんと貴殿野郎を信用しすぎていた。塔子さんと由宇君のいない今、俺がもっとしっかりするべきだった。

 タクシーが駿可屋に到着すると俺は言葉を失ってしまった。……なんだこりゃ?
 建物の外までダンボール箱が溢れていた。駿可屋のロゴがついていないダンボールが多い。ということは買取で送られてきた荷物か?
「サイコー君、これって?」
「買取の荷物だな……一体どうなってるんだよ」
 タクシーから出ると俺たちは建物の中に入った。受付には女性職員がいる。
「涼野です。社長(スルガニャン)も今戻りました。外の荷物、あれってなんですか?」
 息を切らしたまま俺は早口で言った。
 いきなりのことだったので女性職員は少し驚いた感じだったが、スルガニャンのラブリーな鳴き声を聞いて、落ち着きを取り戻す。
「おかえりなさいませ。社長、(涼野)部長。外に置いてある荷物ですが……あれ、全部お客様から買取で届けられた品物です」
 やっぱりそうだったか。倉庫に入りきらないほどのダンボール箱。もしかして同業者から大量に届いた品物か?
「なぜ外に置いてあるんです? って、あ……」
 辺りを見渡すとその光景に驚愕する。この受付口でさえ、床にはダンボール箱がたくさん積まれている。
 右に顔を向けると普段は奥が見えないほどの長い通路のはずが、すべてダンボール箱で埋め尽くされていた。
「なんじゃ、この量は……? 副社長(スルガニャル子)とチーフ(貴殿野郎)は?」
「副社長はお出かけです。チーフは地下にいると思いますが」
 スルガニャル子さん、こんなときにいないのか。
 地下は通販部(商品置き場)だろ。なぜ忙しい買取部にいない? もしかして販売部のほうもめちゃくちゃ忙しいとか?
「ここ最近の売上はどうなっていますか?」
「そうですね、社長たちがここを離れてから売れ行きは右肩下がりです」
 売上、下がってるのかよ。じゃあ尚更チーフは買取部にいなくちゃいけないだろ。
「わかった、ありがとう! ……スルガニャン、地下に行くよ」
「うにゃんっ!」
 地下へはエレベーターで行くことになる。ちなみに地底人はいない。
 ――地下へ到着。
 スタッフはまばらだった。見た感じ、それほど忙しそうには思えない。
 俺は近くにいたスタッフを呼び止め、貴殿野郎がどこにいるのか聞いた。
「チーフですか? 奥にいらっしゃいます。一人で」
「通販部ってあんまり忙しそうに見えないんですけど、買取部のあの状況、どういうことですか?」
「人員を極力減らしているんです。チーフの指示で……」
 人員削減? 俺はそんなこと一言も聞いていないぞ。
「わかった、ありがとう……」
 くそっ、むしゃくしゃしてきた。なんでこんなに忙しいってのに人員減らしてんだよ。なに考えてんだ、あのバッハは。
 貴殿野郎は本当に奥のほうにいた。なんだ? 仕事してんのかよ?
 ちょっと物とか置いたりするための机の上に、ノートパソコンを置いてなにかやっている。
 アダルト動画とか観ていやがったら、ぶっ飛ばしてやる!
「貴殿野郎っ! おいっ!」
「む? ……あ、わわわわっ!!」
 向かってくる俺たちに気がついた貴殿野郎は、すぐに見ていたサイトを閉じようとした。
 貴殿野郎がマウスに触れた瞬間、スルガニャンがジャンプし、貴殿野郎の手の甲を爪で引っ掻く。
「痛あぁぁ――っっ!!」
「痛ぁ、じゃないにゃん。お前、仕事中になに見てるんだにゃん?」
 それが仕事の内容だったらいい。売上とか在庫の数をデータにしてまとめている、そういうのだったらいい。でも、今回は明らかにそうではなかった。
 仕事の内容ならスタッフが見ている前で堂々としたらいいのだ。こんな奥でこそこそやっているからには、必ず人には言えない理由がある。
「スルガニャン、ナイス!」
 モニター画面を見てみると、そこには……。
「貴殿野郎……お前、なにFXやってんだよ?」
「んにゃ? FX? な、なんだにゃ、それは?」
「そっか、スルガニャン知らないか……。これは二か国の通貨を取引することによって、為替差益を得ようとするものなんだよ」
「ふーん、貴殿野郎はそれをやっていたのかにゃん」
「いや、スルガニャン。たぶんきっと君の思っているほど甘いものじゃない。資産運用なんて言えば聞こえはいいが、実際にやっていることはただのギャンブルなんだ。それも四六時中、相場は動く。やっている本人は気になって気になってしょうがないだろう。とても仕事なんて手がつかない。貴殿野郎……てめぇ、FXをやっていて仕事をさぼったな?」
 ここで貴殿野郎が反論。
「ち、違うでござるよ、サイコー殿。わたしは駿可屋のためを思って、資産を増やそうとしただけでおじゃる!」
 ござるとか、おじゃるとか……相変わらずワケのわからんしゃべり方だな。
 待てよ。今、こいつなんて言った?
「貴殿野郎、あんた駿可屋の資産を増やそうと……? なんて言った?」
「ぎょ、御意!」
「ふざけてんのか! はい、いいえで答えろ! 面倒くせぇ!」
「はィィ――――ッ!!」
 もしかして……いや、もしかしてじゃねぇ。今、この状況! 俺の想像した最悪のシナリオになってるんじゃあ……。
 だとしたら相当ヤバイ。確かめるのが怖ぇよ。
「貴殿野郎、本当のことを話してほしい。調べればわかることだからな。もしかして会社のお金を使ってFXをやっているんじゃないよな?」
「……は、はい」
 聞きたくなかった! この言葉は聞きたくなかった、マジで。
「サイコー君? さっきからなにを言ってるんだにゃ?」
 きょとん、とした顔をしているスルガニャン。……恐ろしいことが起きてるんだよ。
 貴殿野郎は会社の金を使ってFX――ギャンブルをした。そしてさっき聞いた人員削減の件。
 それらから連想すると、もう答えは出ていた。
 貴殿野郎はFXで負けた。まだトレード画面が出ていたことから考えて、負け続けていると言ったほうがいい。問題はその損失額だ。
「負けたな、貴殿野郎」
「な、なんでわかるですか?」
「わかんだよ! 俺もフリーターのときは散々FXで損したからよぉ! 個人はFXで勝つことはできねぇ。金持ちやファンドに養分とされるのがオチだ。そんなこともわかんねぇのかよ」
 ちなみに俺はFXでトータル八十万円前後は負けていた。
「いくらだよ? いくら負けた?」
「ご……五百、万」
 気を失いそうになった。後ろに倒れそうになったのを堪え、俺は貴殿野郎の顔面を殴った。
「――ぐはっ!」
 椅子から転げ落ちる貴殿野郎。こういう奴は口で言ってもわからねぇ。同じ仕事仲間だからといって許されるものと許されないものがあるだろ。こいつはそれを踏み越えてしまったんだ。
「なにするんだにゃ、サイコー君? 社内で暴力沙汰はやめるんだにゃ!」
 スルガニャンは貴殿野郎をかばろうとした。でも俺の話を聞けば、かばおうとする気持ちもなくなるはずだ。
「スルガニャン、よく聞いて。貴殿野郎はね、会社のお金を使ってギャンブルして負けたんだ。それも……五百万円」
「にゃ、にゃにっ?」
 コミックスや同人誌を売買して五百万円利益を上げようと思ったら、どれだけ売ったらいいんだ?
 売るだけじゃない。お客様からの買取もある。そんな多くの手間をかけてやっと手にすることができる大事な大事なお金だ。
 それを五百万……! 貴殿野郎が勝手にっ!
「すまぬ……サイコー殿」
「サイコー殿じゃねぇ。あんた、その五百万の損失をカバーするために買取部の人件費を削ったのか――――ッッ!!??」
「ふ、不覚……」
 不覚じゃねぇよ。いちいち言うことが気に障って仕方がねぇ。
「今もまだ現在進行形でやってるんだろ、FX……」
「すまぬ。さらに五百万円を賭けて、ただ今百五十万のマイナス中でござる」
 俺はマウスを操作して、勝手に今のポジョションを決済した。
「――あ、サイコー殿? なにを?」
「こんなのやってるからダメなんだよ。いいか? FXは絶対勝てねぇ! 勝てねぇんだよ!!」
「FXは上がるか、下がるか……それを当てるゲーム。ならば勝率も五十パーセントでは?」
「為替の動きっていうのはよ、なんでも一方向に動くんじゃんねぇ。下に動いたと思えば上に行く。そのまま上に行くのかと思えば今度は下に行く。いつかまた戻ってくると思ったらもう戻っては来ない。そんな感じで上下の動きが激しいんだ。その動きに大抵の人間はやられるんだよ!」
「そうか……やはり個人だと勝てないのか。もっと、早く気づくべきだった」

 貴殿野郎は、つい魔が差したらしい。塔子さんと由宇君が駿可屋を離れ、俺とスルガニャンも離れた。
 そしてスルガニャル子さんも、なぜかたびたび駿可屋を離れるようになる。
 初めは二、三時間だった。しかし、日に日に外へ出る時間が長くなった。現に今もスルガニャル子さんはいない。本当にどこに行ったのだろう?
 もしかして富山が恋しくなったのだろうか。
 スルガニャル子さんは長い間、富山に住んでいる、あるお婆さんに世話をしてもらっていた。でも、もうお婆さんはいない。だとしたらお墓参りかな。
 しかしそうであったとしても、受付や旦那であるスルガニャンに一言連絡すべきだろう。
 まさか誘拐でもされたのか? ……それも違う。スルガニャル子さんは朝早くに出かけ、夜になると帰ってくるみたいだ。
 今夜、どこに行っているのか聞いてみよう。
 さて、貴殿野郎の処分について考えなければならない。会社に六百五十万円もの損失を出したのだから、なにもお咎めがないというのは皆に示しがつかない。
 かと言って、警察に突き出すのはスルガニャンとしても辛いところだろう。
 実際、スルガニャンも俺も貴殿野郎の仕事ぶりは認めている。……今回だけだ。
 今回だけ給料十パーセントカットと今後三年間の賞与なしで手を打とう。
「……それでいいよね、貴殿野郎」
「はっ、はは――っ!!」
 貴殿野郎は時代劇に出てくるような土下座をした。彼は本気で反省した、そう信じたい。
 貴殿野郎はハピタスDMM FXの口座開設をしたらしい。
 確かにハピタス経由での口座開設はお得だ。もらえるポイントが一万五千円相当なんだから。
 俺もまったく同じことをしている。ハピタスDMM FXの口座を開設して……ダメだ。やめよう。
 FXは中毒性があり、それはギャンブル中毒。パチンコやパチスロと同じようなもの。
 抜けようと思ってもなかなか抜け出すことができない。一種の病気だった。

 俺とスルガニャンは貴殿野郎が辞めさせたスタッフに事情を説明した。
 幸い、辞めていった全員が駿可屋に戻ってきた。皆、駿可屋を愛している人たちばかりだ。
 辞職を勧告されて、その場で泣きだした女性スタッフもいたようだ。
 貴殿野郎をチーフからサブチーフに降格させた。そしてお辞儀君を新たなチーフとして迎えることにした。
 ちなみにお辞儀はひたすら買取作業をしていたという。通常、買取スタッフはお辞儀君を入れて十名ほどのいるのだが、この時点で買取スタッフはお辞儀君だけという衝撃事実!
 一か月近くお辞儀君が一人で買取業務をしていたのだ。朝から深夜までずっと……。
 貴殿野郎が買取スタッフを辞めさせても、お辞儀君はなにも言わなかった。
 誰に対しても頭を下げる物腰の柔らかさは、ときには弱点となってしまう。誰か貴殿野郎の暴走を止める者が必要だったんだ。
 俺もスルガニャンも買取作業を手伝う。そこで俺はようやく思い出した。買取金額〇円の件だ。
 高いものはそのまま高く買い取り、安いものは軒並み〇円。今の駿可屋はそういう買取設定になっていた。
「お辞儀君、これも貴殿野郎の指示なの?」
 お辞儀君は作業の手を止める。
「この指示は貴殿野郎ではありません。副社長の指示です」
「スルガニャル子さんが?」
 買取遅延の件、そして買取金額〇円の件。同じようで原因がまったく違うのか?
 スルガニャル子さん……あんた、今どこでなにをしてるんだよ?

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posted by サイコー君 at 23:28 | Comment(2) | スルガニャン物語2(自作ラノベです) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

スルガニャン物語2(1)

  あらすじ

 涼野守(サイコー君)は駿可屋の採用面接に合格し、スルガニャンたちと共に駿可屋で働くことになった。


第一章 スルガニャン人気ありすぎ

  1 パクリ疑惑

 クロガネ君にクロガネのサントラCDをプレゼントして半年がたった。
 今、俺とスルガニャンは東京に来ている。ある会社を訪問するためだった。
 二人はそこで応接間へ案内され、ピリピリした雰囲気の中、商品開発担当の黒田という男と議論している。
「あなたの会社、ウチのスルガニャンをパクりましたよね?」
「いえ、そんなことは……」
「シバニャンって思いっきりスルガニャンと被ってるじゃないですか。名前のゴロとか、猫とか。それにこの黒のサングラス! どう見たってこれはスルガニャンでしょう?」
 株式会社YOUKAI。ここは主に妖怪ペダルを製造・販売している自転車会社だ。
 自転車のペダルに妖怪のイラストを描くという斬新な方法で最近、急成長を遂げた会社である。
 その妖怪キャラのデザインがスルガニャンによく似ていた。
 柴猫のシバニャン。そもそも柴猫なんて存在するのか? 柴犬なら聞いたこともあるが。
「えー、ですから。これはただの偶然ですよ。たまたまデザインと名前が似ていた。そういうことだってあるでしょう」
 黒田という男は推定五十歳前後の男で、開発担当部長の役職に就いていた。
 白髪交じりで、ちょっと怖そうな感じの人。俺よりもガタイがいい。でも、そんなことで怖気づいたりしないぞ。
 スルガニャンがパクられたなんて大事件だ。このまま野放しにできるわけがなかった。
「……こんなこと言ってるよ。スルガニャン、この人になにか言ってあげてよ」
 俺の傍には黒のサングラスをした白い毛並みの猫が、おとなしく座っていた。その姿はあまりにも優雅。
 猫背のカーブはとても美しく、眺めているだけで幸せな気分になる。夢中になりすぎて時間が流れるのをついつい忘れてしまうほどだった。
 彼の名はスルガニャン。
 人間の言葉を話す猫。黒のサングラスをかけているのは目に光を直接浴びないためだ。それは悲しいことかな、事故の後遺症だった。
 そのサングラスが今やスルガニャンのトレードマークになっている。
「……サイコーくぅん。猫にサングラスをかけたから、おいらのパクリだなんて、やっぱり無理があるにゃ」
 不安そうなスルガニャンの頭を俺は撫でた。
「な、なにするにゃ? なんで頭撫でるんだにゃ?」
「それはね、スルガニャンがかわいいからだよ」
 そう言って、俺はスルガニャンの首をさわさわ撫でた。
「うにゃー、気持ちいいにゃ〜」
 ソファにごろんとお腹を出して横になるスルガニャン。
 たまらん。今日のスルガニャンは甘えてくるな。人に見られてもいい。触れ、スルガニャンのお腹を触ってやれ!
「うにゃ、にゃはははははっ!」
「しゃ、しゃべった? ……猫が」
 目を丸くするのは黒田という男。
 俺は試していた。彼がスルガニャンを知っているのかどうかを。
 彼がスルガニャンを知っていたら、(スルガニャンのキャラクターを)パクッた可能性は高い。知らなければ可能性は低い。
 ただ、そのまま聞いてもすっとぼけるおそれがあった。だから俺は試しているのだ。
 スルガニャンを知っていたらどこかでボロが出るはずだ。
「本物のスルガニャンですよ。触りたいですか?」
「うっ! ……スルガニャン」
「今、スルガニャンって言いましたよね? やっぱり知っていますね、スルガニャンを」
「いや、知らない。君が言ったんじゃないか。スルガニャンって」
「スルガニャンは耳の後ろを刺激すると喜ぶんですよ。そのときに出す甘い声を聞くと勃起もんですよ。聞きたいですか? ……いいや、聞かしません。スルガニャンを知らないのならそんなこと興味はないですよね?」
「うっ、くくっ……」
 男は苦虫を噛み潰したように顔を歪ませた。
 バレていないと思ってるのか? お前はスルガニャンに熱い視線を向けている。興味がないなんてことはあり得ないんだよ。
「うにゃ〜ん、うにゃ〜ん」
 ふふ、相変わらずかわいいね。スルガニャン。
「――ハッ。え、えっと……とにかく! 我々はスルガニャンという猫をパクッていない! 話は以上でよろしいですかな?」
 こいつ、素直に認めればスルガニャンの頭を一回ぐらい撫でさせてやろうと思ったのに……。
 まあいい。俺には一つ秘策があった。
「わかりましたよ、黒田さん。あなたはスルガニャンを知らない。そうですね? だとしたらパクるなんて、とてもできない行為だ。だってそもそも知らないんだから。でしょ?」
「その通りだ。わたしは忙しいのだよ。そろそろお引き取り願いましょうか」
「では一つだけ答えてもらえませんか? あなたは駿可屋というネットショップを知っていますか?」
「もちろん知っ……いや、知らない。なんだ、それは? 和菓子屋か?」
「知らない? なるほど。わかりました。では……ハンパにゃい?」
「え?」
「続きを言って下さい。二の句ですよ。言葉遊びです。ハンパにゃい……」
「か、買取力? ……し、しまったぁっ!!!!」
 墓穴を掘ったな。やはりこの黒田という男、駿可屋を! スルガニャンを知っていた!
「これはどういうことなんでしょうねぇ、黒田さん……。まさか『ハンパにゃい買取力』という駿可屋の有名なフレーズを、たまたま思いついたなんて言うんじゃないでしょうね?」
「ひ、卑怯だぞ。これは誘導尋問だっ!」
「そうですよ。誘導したんですよ。これだともうスルガニャンをパクッたと認めているようなものですよ。そろそろ白状して下さい。あなたの会社でデザインしたとされている柴猫のシバニャンは、スルガニャンをパクったものですね?」
 男はついに観念したようだ。
 肩をガックリと落とし、俯いたまま呟き始めた。
「仕方なかったんだ。ウチの会社にもスルガニャンにような人気マスコットキャラクターが欲しかった。手っ取り早いのがパクることだった。本当に申し訳ない」
「反省しているんですね? ダメですよ。いくらかわいいからと言っても、スルガニャンは駿可屋の公式キャラクターなんです。本人も実在するんですから」
「あの、その猫は本当にスルガニャンですか? まさか本当にいたなんて……」
「本物です。……スルガニャン、お尻の傷を黒田さんに見せてあげて」
「んにゃ」
 スルガニャンは体をくねらせ、そのラブリーなお尻を黒田さんに見せた。
「お、おぉっ……! その傷、まさにスルガニャン!」
「あなたもかなりの通ですね。相当なファンじゃないと、なぜお尻の傷を見せたのかわからないはずなのに」
「この際です。白状しますが、わたしはスルガニャンの大ファンでね……あ、ちょっと待っていて下さい。……安心して下さい。逃げようなんて思ってませんから」
 黒田さんが部屋を出て、すぐにまた戻ってきた。
 その手にはスルガニャンぬいぐるみが抱えられている。
「わたしも駿可屋のサイトでスルガニャンぬいぐるみを買いました。毎日これを抱いて寝ています」
 黒田さんはスルガニャンぬいぐるみの頭を大切そうに撫でていた。よっぽど好きなんだろう。
「そんなに溺愛していたら家族の人が嫉妬するでしょう?」
「いえ、妻も娘もスルガニャンの大ファンなんです。家にはスルガニャングッズが三十点以上ありますよ」
 筋金入りだな、この人は。
 でも安心した。金銭目当てにスルガニャンをパクッたわけではない。純粋にスルガニャンが好きだからパクッたといったところか。
「それでわたしの処罰は? 賠償金はおいくら支払えばよろしいでしょうか? できれば裁判沙汰は勘弁してもらえませんか?」
「処罰だなんてとんでもない。俺たちは確認したかっただけですよ、黒田さん。あなたはいい人のようだ。シバニャンのキャラページの説明に『スルガニャンをイメージしました』と、ちょっと足しておいて下さい。それだけで十分です。賠償金なんてとんでもない。そんなものいりません。あなたも駿可屋のお客様です。駿可屋はお客様を第一に優先するショップです」
 俺がそう言うと黒田さんの目から涙がポロポロと流れた。
「すみません、本当にすみません!」
 これで一件落着だな。さて帰るとするか。
 用件が済んだので俺とスルガニャンはここから去ろうとした。そんな中、黒田さんが駆け寄る。
「なにか……?」
「図々しいことを言っているのは百も承知です。後生です! 生スルガニャンの頭を撫でさせていただけないでしょうかっ?」
 黒田さんは土下座していた。スルガニャンをどれだけ愛しているのかがわかる。
「スルガニャン……」
 俺は目で合図を送る。触らせてあげなよ、と。
「んにゃっ」
 スルガニャンが黒田さんの傍に寄った。
「なんという幸せ! これがスルガニャン。生のスルガニャンっ!! ハハハッ!!」
 黒田さんはさらに図々しく、スルガニャンのサインをねだってきた。
 こいつ、遠慮ってもんを知らねぇな。
 てっきりどこにでもある色紙を持ってきたのかと思った。でも黒田さんが持ってきたのは『ハンパにゃい買取力』のチラシだった。
「これ、持っていたんですか? このチラシ、一万五千枚しか作っていない。相当レアなものですよ」
「そうです。妖怪メダルの高価買取……ですが、このチラシが配布されてすぐに高価買取はなくなった。伝説のチラシですよ」
 配布期間は約一週間。よほど運がいいか駿可屋のヘビーユーザーでないと、このチラシを手にすることはない。
「いや、驚きましたよ。まさかここでこのチラシを見ることになるとは」
「妖怪メダルの高価買取はなくなったんですね? どれでも百円買取保証は確かにハンパではなかった」
「日本国内から想像以上の妖怪メダルが集まりました。少々、経営を圧迫しましたよ。お客様の笑顔が見たくて始めたこの取り組みですが、さすがにサービスしすぎたようです」
「駿可屋さんらしいですね。あの、もしかして涼野さん。あなた……?」
「えぇ、サイコー君ですよ」
「サイコー君?? まさか、あの? 『駿可屋がマジで最高!』のサイコー君?」
「そうです。顔は一度も出したことがないのですが……わかっちゃいましたか?」
「わかりますとも。そのスルガニャンとぴったり息が合ったやり取り。駿可屋の知識。どこをどう見てもサイコー君です」
「はは、そう言われると照れますね」
「しかし、あなたがいてなんでこんな……」
 さっきまで陽気に話していた黒田さんだったが、急に表情を曇らせた。
「黒田さん? なにか気になることでも?」
「『ハンパにゃい買取力』……確かにハンパじゃないですよね。買取金額が〇円なんですから」
 買取金額が〇円?
 はぁ? なにを言っているんだ、この人。
 駿可屋の買取力はマジでハンパない。それは俺が駿可屋に入社する以前からだ。
 買取金額が〇円だと? そんなバカな話があるか。
「なに言ってるんだ、あんた? 駿可屋で買取金額が〇円のはずがないだろう。なに言ってんだ?」
「まさかご存知ない? スルガニャンも?」
 スルガニャンは首を横に振る。
 ご存知ないっていうか、買取〇円とかないから。そんな店じゃないから。
 駿可屋を侮辱されたみたいで俺は腹が立った。それはスルガニャンも同じことだろう。
「もう一度聞きますよ? 駿可屋で買取金額が〇円だと言われた……そうですね?」
「はい。会社ではなく、わたし個人が買取申し込みをしたんです。申し込む前に買取金額を検索しました」
 あんしん買取か。あんしん買取は駿可屋が誇るお客様に大好評のシステムだ。
「検索したのですが、そこに表示されたのは〇円……〇円、〇円、〇円。ほぼ、すべてが〇円でした」
 そんなことあるわけがない。海岸に落ちていた貝殻でさえ、十円で買い取るほどの店だぜ、駿可屋は。なめんなよ。
「あなた、そのとき寝起きでしたか?」
「は?」
「だから、寝起きでしたか? きっと目が霞んでいて、十円とか百円が〇円に見えたんでしょう。そうとしか考えられない」
「……そこまで仰るのならいいでしょう。ご自分の目で確かめてはいかがですか?」
 なんだその自信は? こちとら駿可屋の社員だ。
 吠え面をかくなよ、なんて一生使わない言葉だと思っていた。でも今の心境がまさにこれ。
 俺はこの男の目の前で証拠を突きつけるつもりだった。
「駿可屋サイト、駿可屋サイト……ん?」
 買取の検索ページで試しに『天地無用!』と入力してみた。そしたら……。
「な、なんだこれ? 〇円? どういうことだ?」
 あり得ないよ、こんなの……。まるで悪夢でも見ているようだ。
 買取不可じゃない。〇円買取!
 似ているようだが微妙にニュアンスが違った。買取不可よりずっとせこい気がする。
「待てよ、ほとんど〇円じゃねぇか。LDだったらまだわからんこともないが、CDが〇円って……そんな」
「サイコー君? マジで言ってるのかにゃ?」
 スルガニャンが俺の右肩に跳び乗った。顔をケータイの画面に近づける。
「にゃ、にゃんだこれは?」
 俺とスルガニャンにはまるで心当たりがない。……いや、わずかにあった。
 スルガニャンには娘と息子がいる。梨本塔子さんと由宇君だ。
 二人は優秀だった。まだ二十二歳と二十歳だったが、なんでもそつなくこなした。
 これまで駿可屋の運営は主にこの二人に任せていたのだ。……が、スルガニャンの奥方――スルガニャル子さんが現れて、二人は大学に進学した。
 これまで駿可屋の運営で二人を縛っていた。
 スルガニャル子さんが駿可屋で働くことになったので、二人にはそれぞれ自由な時間過ごしてもらうことにした。そういうわけで二人は数年の間、駿可屋の運営から手を引くことになった。
 二人はそれぞれ地方の大学に一人暮らししていて、当分駿可屋には帰ってこない。
 俺とスルガニャンは東京に来る前に、高知県に寄っていた。
 ここのゆるキャラであるカツオにゃんこが、これまたスルガニャンのパクリではないかと疑問に思ったので調査しに行ったところだ。
 二〇一一年に作られたキャラのようだが、駿可屋の歴史のほうがずっと古い。スルガニャンがモデルになったのは明白だった。
 高知県に行ったついでに、つい観光してしまった。だって高知県って言ったら坂本龍馬じゃん。スルガニャンといろんなとこ巡り歩きしたいよ。
 その期間は三週間だったかな。で、東京に来てからもスルガニャンとアキバに行ったりとちゃっかり旅行を楽しんだ。まあ、俺から言わせればほとんどデートだ。
 トータル一か月。その間、駿可屋は俺もスルガニャンもいなかった。
 主にスルガニャル子と貴殿野郎に駿可屋の運営を任せた。
 買取金額が〇円表示される原因はこの二人にあるのかもしれない。すぐにでも静岡に戻ろう。
「行くよ、スルガニャン。……黒田さん、すみませんでした。理由はわかりませんが、買取金額が〇円表示されるのは事実。もちろんそういう意味での『ハンパにゃい買取力』ではありません」
「わかっていますとも。あなたたちはすぐに駿可屋に戻るのです。そして本当の意味での『ハンパにゃい買取力』にして下さい。期待しています」
 そして黒田さんが右手を差し出した。握手か……なんだ? スルガニャンと握手?
 最後まで図々しかったな、この人は。




posted by サイコー君 at 04:20 | Comment(0) | スルガニャン物語2(自作ラノベです) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする


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