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2014年10月28日

スルガニャン物語2(ラスト)

  エピローグ

 ……なんだろう。
 なんか涼しいな。それに変な匂いがする。消毒っていうか、病院の匂い。そんなに嫌いじゃない。
 昔、脱腸で入院したことを思い出した。筋トレをやろうと思って、重たいダンベルを持ったらなっちまったんだよね。
 手術代に十万かかったよ。体を鍛えるのが目的だったのにさ。ハハ、アホみたいな話だ。
 目を開けると、見慣れない光景が飛び込んできた。……どこだ、ここ?
 どうやら病院っぽい。
 あ、そうか。俺、頭を強く打ったんだよな。それで病院に運ばれたのか。
 ……皆はどうしたんだろう。無事にベックオフの本社から逃げ出すことはできたのか?
 塔子さん? 由宇君?
 お辞儀君……。
 誰もいない、か。……スルガニャン。スルガニャンはどうなった?
 ふと、横を見るとぬいぐるみのようにちょこんと横になっている白い猫がいた。
「スルガニャン……無事だったんだ」
 耳を澄ませばスルガニャンの寝息が聞こえる。呼吸のたびに毛布が盛り上がった。スルガニャンは生きているんだ。……本当によかった。
 部屋に明かりはついていない。窓からの日差しだけで十分周りが見えた。
「――お。……サイコー君、目が覚めたか?」
 病室に入ってきたのは塔子さんだった。左腕は肩から三角巾を掛けて固定されていた。
「塔子さん? 無事だったんだね。君が救急車を呼んでくれたの?」
「そうだ。無茶をしたな、サイコー君」
 塔子さんの話を聞くと、入院したのは俺とスルガニャンだけらしい。
 塔子さんたちは軽傷で済んだんだって。
 貴殿野郎も特にケガはなく、相変わらずだそうだ。警察に自首するかどうか葛藤しているらしい。早く行けっての。
 ベックオフの社長はこことは違う別の病院へ運ばれたようだ。
 ……実は彼、相当な隠れスルガイヤーだったらしい。社長室からは大量のスルガニャンぬいぐるみが大切に飾られていた。
 本当は駿可屋を愛していたんだ。でも、彼はベックオフの社長。運命のイタズラってやつか……。
 ベックオフは倒産した。一番の原因はやはり貴殿野郎のFXで出した損失らしい。ほとんど貴殿野郎が倒産させたようなもんじゃん。
 これで、ふりかけさんも成仏できるかな……。
「スルガニャンの目はどうなの? 大したことないよね?」
 こんなに静かに寝てるんだ。きっと大したことない。
 でも塔子さんの表情は暗かった。彼女が重々しく口を開く。
「父上の目の状態は深刻だ。近いうちに手術が必要らしい」
「そんな……でも、手術したら治るんだよね?」
「医者はそう言っている。……だが、手術には多額の金が必要になる。その額、三千万円」
 三千万円? そんなにお金がかかるんだ……。
「サイコー君、どうすればいい? このような大金、駿可屋にはないぞ」
 駿可屋を店ごと売ったらどうだろうか。そしたら三千万円、工面できるかもしれない。
 でもそれは俺たちの駿可屋がなくなるってことだ。もう皆と仕事ができない。
 駿可屋にはたくさんの思い出が詰まっている。それはお客さんにとっても同じことだ。
 きっと悲しむだろう。駿可屋の買い物が生きがいだという人も少なくない。
 ベックオフがなくなり駿可屋もなくなったら、日本国内にマンガ・ゲームの買い物難民が溢れかえってしまう。
 それはもう楽天やヤフオクの力だけではどうしようもない。
 そうだ、お客様。お客様に頼ることはできないだろうか?
 商品の最低単価を高く設定する。タイムセールの割引率を低くする。
 〇円買い取りの復活。買い取りアップキャンペーンの改悪。
 どれもお客様の立場になれば不利な条件だ。こんなの受け入れてくれるはずがない。
 駿可屋の良さがなくなってしまうじゃないか! でも……それでも俺は信じてみたい。
 願いは叶えるものだ。信じたい、奇跡を。
「塔子さん。俺のスマホ、どこにある?」
「あ、あぁ。それはここに……」
 俺はブログにこのことを記事にする。スルガニャンの手術代を捻出するため、皆に泣いてもらうことを。
「サイコー君? 君はなにをするつもりなのだ?」
「塔子さん……あんた、駿可屋のお客様を信じられるか?」
「なにを……言っている?」
「俺は信じたくなった。スルガイヤーはスルガニャンが苦しんでることを知ったら、きっと助けたくなるはずだ。駿可屋は今日から値上げする」
「値上げだって? お客様から消費税の便乗値上げだと非難されるぞ? その覚悟はあるのか?」
「もちろんだ。でも、俺はそうならないと思う。……ラブリーラブリー、スルガニャン」
「ラブリーラブリー……スルガニャン?」
「恥ずかしがるなよ。もっと声を大にして言おうぜ。ラブリーラブリー、スルガニャン」
「ラ……ラブリーラブリー、スルガニャン」
「そうだ。ラブリーラブリー、スルガニャン」
「「ラブリーラブリー、スルガニャン! ラブリーラブリー、スルガニャン! ラブリーラブリー、スルガニャン!」」
 隣の病室からも聞こえる。……ラブリーラブリー、スルガニャン。
 患者が部屋にやってくる。彼らは口を揃えて言った。
「ラブリーラブリー、スルガニャン! ラブリーラブリー、スルガニャン!」
 看護婦さんも、先生も部屋に来た。……もう部屋は人でいっぱいだ。
 近所の人たちも集まってきた。そして世界は一つになった!

「ラブリーラブリー、スルガニャン!」

 ――後日、ブログに書き込みがあった。
 それは値上げを理解してくれる、温かい声の数々だ。
 浮いたお金はすべてスルガニャンの目の手術代に回された。
 もちろん三千万円貯まったら値上げは解消する。
 費用を前借りして受けた手術は大成功だった。いつものスルガニャンに戻った。元気に動き回っている。
俺とスルガニャンは退院し、二人は事務所にいた。
「スルガニャン、聞いた? 貴殿野郎が商品の価格をしょっちゅう変えてるって話」
「あぁ、知ってるにゃ。『ころころ値段が変わるから株みたいで、お客様も楽しいでござろう?』なんてほざいていたにゃ」
「ったく、早く自首しろっつーの。……話は変わるけど、そろそろクリスマスにお正月じゃない? せっかくだから今年は特に大きなセールをしたいよね」
「去年は新品スナック菓子笑撃!うまい棒1000本セットがインパクトあったにゃ。今年は一万本にでもしようかにゃ。にゃっはっは」
「お客様に喜んでもらえるセールにしようよ、スルガニャン」
「んにゃ、年末も年始も忙しくなりそうにゃ。サイコー君、これからも駿可屋を頼んだにゃ」
「うん……あのさ、スルガニャン」
「ん? なんにゃ? サイコー君」
「キス……しよっか」
「え……えぇっ???? マジで言ってるのかにゃ、サイコー君。それってセクハラ……いや、猫ハラだにゃ!」
「いいじゃないか。猫ハラ、最高だよ」
「うにゃ〜、ちょ、ちょっとだけだにゃ。今日のサイコー君は強引だにゃ」
 俺とスルガニャンの未来はこれからも続く。
 猫ハラがマジで最高!

ブックオフオンライン

posted by サイコー君 at 15:51 | Comment(1) | スルガニャン物語2(自作ラノベです) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年10月27日

スルガニャン物語2(8)

 お辞儀君が体を張ってくれたおかげで警備員の問題はなくなった。
 俺たちは全員、車から出て建物に近づいた。このまま中に入ろうとするが、ここで新たな問題が生じる。
 扉の取っ手を掴んだが全然開こうとしない。よく見ると、取っ手の傍にカードを通すような機械が設置されていた。
 社員証かな? そういうものを通さないと中に入れないパターンだ。これは困った。
「サイコーさん、ぼくに任せてもらえますか?」
「由宇君。……いいけど、なにか手があるの?」
「この手のタイプは比較的古い型ですね。なんとかなりそうですよ」
 そう言って由宇君は鞄の中からなにか怪しげな機械を取り出し、それをカード読みきり機にかざす。
 機械の大きさは懐中電灯ぐらいのもので、盗聴器を探すような動作だった。そして……。
 ――ギィ。
 開いた。こんな短時間であっさりと。
「うまくいきましたね。さ、中に入りましょう」
 扉が開いたことに対しては嬉しいのだが、確実に罪を増やしていってるような気がする。うーん、複雑な心境。
「貴殿野郎さんのケータイに電話しましょう。居場所がわかりますよ」
「でもたぶん電源は切られているよ。それでもわかるものなの?」
「えぇ、どうしてわかるかは……企業秘密ですよ」
 あ、はぐらかした。俺に説明しても理解できっこないと思ってはしょった。……ま、それが正解だな。
 四階までしかないとはいえ、ただやみくもに探すのでは効率が悪い。ここは由宇君に頼らせてもらおう。
 結果はすぐにわかった。
「……四階ですね。反応がありました」
 じゃあエレベーターで向かうとするか。
 一階には人がまったくいない。こそこそと隠れる必要はなかった。このまま一気に四階まで行こう。
 四階に着くと今までの雰囲気がガラリと変わる。照明がついていない。……いや、ついている。奥の部屋だけに。
「あの明るい部屋……あそこに貴殿野郎が」
「ですね。まだ生きていたらいいのですが」
 不吉なことを言う。でもこういうのドラマだと、すでに死んでいる、なんてパターンはよくある。
 しかしあの貴殿野郎が死ぬとは思えない。殺そうと思ってもなかなか死にそうにない奴だ。ここまで来たんだ。どうせなら生きていてくれよ。
 先頭を進むのは由宇君だった。俺がそのあとに続く。
「ん? ちょっと待って下さい。人の気配がありました」
「貴殿野郎の?」
「歩いているような影が見えたんですが……シルエットだけだったのでなんとも」
 シルエット? だったらわかるじゃないか。髪型がバッハなら貴殿野郎だ。
「由宇君、髪は見た?」
「髪は……たぶん、バッハっぽかった……かな?」
 ぽかったら、おそらく貴殿野郎だ。あんな髪した奴なんてめったにいない。
 よかった。この階には彼しかない。
 五人がホッと胸を撫で下ろした。さっきまでの緊張感が薄れ、足を早める。
 部屋の正面に立ってドアノブを回した。
「――おい、貴殿野郎。助けに来てやったぞ」
 そこに貴殿野郎がいる。当然そう思っていた。……が、部屋の中にいたのは初めて見る男。
 身長が百九十センチ以上ある。かなりでかい。
 髪は天然パーマで巻いていた。貴殿野郎のそれとは似ていたが黒髪だ。シルエットだけではほとんど見分けがつかない。なんと紛らわしい。
「なんだ? お前は?」
「あ……すみません。ちょっと部屋を間違えました」
 部屋を出ようとしたとき、奥のほうに小さくなって屈んでいる男がいた。
 口にはさるぐつわがつけられている。怯えた目と、特徴のあるバッハのような髪。
 今度は見間違いではない。貴殿野郎だ。
「お前、もしかしてこいつの仲間か?」
「いや、あの……違います」
 男の迫力に驚いて、つい言ってしまった。
 こんな奴がいるなんて聞いてないぞ。警備員なんかじゃない。まるで屈強な体をしたアメリカ兵やロシア兵のような印象!
 もし格闘戦になったらまず負ける。ここは体制を整えて……。
「バイボーボボ(サイコー殿)! バブボボボ(助けてござる)!」
 あのクソ貴殿野郎。このタイミングで言うんじゃねぇよ。
「サイコー……? お前らもしかして、駿可屋の者か!」
「いえ、なんです。駿可屋って? 和菓子屋ですか?」
 男の視線は俺の足元に……。まずい、もしかしてスルガニャンを見ているのか?
 サングラスをかけた猫なんてスルガニャンしかいない。もしこの男がスルガニャンを知っていたら俺たちのことがバレる!
「スル……ガニャン? ということは、お前……サイコー君か?」
 まずい、バレた! どうする? 話し合いで解決できそうな奴か?
 答えが出る前に男からパンチが繰り出される。この軌道、直撃する?
「サイコーさん、危ないっ!」
 由宇君が俺の前に飛び出た。男のパンチを腕で受けるが、後ろに吹っ飛んでしまう。
「由宇君っ!」
 壁に背中を思いきり打ちつけて、そのまま崩れるように倒れた。
「あ……うっ……」
「大丈夫? 由宇君?」
 男に後ろを見せてしまった。俺はケツを蹴られ、デコが壁に激突した。
 頭が割れるような痛み。俺は由宇君に覆いかぶさるようにして倒れた。……こいつ、いきなりこれかよ?
 男は相当駿可屋のことを恨んでいる。ベックオフの関係者だ、それもかなりの重役だ。
「……この男、ベックオフの社長だ」
 そう言ったのは塔子さんだった。彼女は鋭い目つきで男を威嚇する。男も彼女の実力を見抜き、そう簡単には仕掛けてこない。
 脳がぐるぐる回っているような感じだ。平衡を保てない。目も掠れ、まともに焦点は定まらない。
 そんな悪状況の中、俺は塔子さんにもう一度確認する。
「と、塔子さん。社長? 今、社長って言った?」
「そうだ。インターネットで何度か見たことがある。もちろん今のような怖い顔はしていないがな。いきなりの暴力、ベックオフが潰れることが決まって気でも狂ったか?」
 これに男は答える。
「駿可屋! お前らさえいなければ我がベックオフが業界トップだったものを。貴様らのせいだ! 毎日毎日、CDの入ったダンボールを送ってきて。倉庫が駿可屋のダンボール箱だらけだぞ!」
「送ったのは我々ではない。駿可屋で商品を買っていただいたお客様だ」
「そんなことどうでもいい。……なぜだ? なぜお前らはあんなにCDを安く大量に、客に提供することができるのだ? わたしにはわからん。なぜだ?」
「――それは人望だにゃ」
 横から割って出てきたのはスルガニャンだ。
「父上?」
「塔子、お前は下がっていろにゃ。……おい、ベックオフの社長。中古CD屋が潰れたら店の在庫はどうなると思うにゃ? ゴミ収集車にでも持ってってもらうかにゃ? ウチではそういう業者のために業者向けの買取サービスを行っているにゃ!」
 そうだ、駿可屋は業者にも優しい。そのサービスの質が認められ、口コミで広がっている。
 倒産すれば駿可屋。それが業界では当たり前になっているのだ。なんといっても買取金額が高いからね。

 駿可屋では、メーカー・問屋・個人事業主バイヤー様・同業者様・同人サークル様からも積極的に買取をさせていただいております。
「大量に余った在庫を処分したい」「倉庫に眠っている在庫を整理したい」「新商品と入れ替えたい」などなど、そんなお悩みを駿可屋が解決します!
 新品商品はもちろん、中古商品、店頭展示品など駿可屋が買い取らせていただきます。
 お値段は交渉の上、業者様価格にて買取させていただきます。
「こんなものでも大丈夫?」みたいなものでも、まずはお気軽にお問い合わせください、だ。

「うぬぬ……なら、なぜベックオフには業者が売りに来ない? おかしいではないか? ベックオフは業界ナンバーワンだぞ。駿可屋は世間に言えないような裏取引をしているんじゃないだろうな?」
「裏取引? 脱税とかそういうこと言ってるのかにゃん? ……違うにゃ。そもそもお前の言う業界ナンバーワンとはなんにゃ? 資本金の大きさを盾にして、でかい顔してるだけの会社に、どこの業者が買取申し込みをするんだにゃ?」
「うっ――!!」
 決まった! さすがスルガニャンだ。痛いところを突く。
 スルガニャンの言うことはもっともだった。……信頼関係。それはお金では買えない。
 相手を思いやる心がないとそれは築けねぇんだよぉっ!
「ならば! バッハのような男が、勝手に本社に侵入し、勝手にFXなんぞをやって損失を出したことはどう説明するんだ?」
「それは知らないにゃ。貴殿野郎が勝手にやったことにゃ。文句ならあいつに直接言うんだにゃ」
 バッサリ斬るところがスルガニャンだ。不正行為には厳しい。
「う……、うわぁぁ――――ッッ!!」
 男がスルガニャンを捕まえようとするが、スルガニャンは華麗に後ろに跳び、攻撃を回避した。
「なにするにゃっ?」
「スルガニャン……ベックオフはもう無理だ。倒産だ! だったら駿可屋も一緒に滅んでくれよ。一緒にさぁ」
「なに言ってるにゃ。駿可屋にはお客様が待ってるんだにゃ。こうしている間にも注文が入ってるにゃ。遅延しないように、さっさと貴殿野郎を渡すんだにゃ。そしたらこっちから貴殿野郎を警察に送ってやるにゃ。それでいいにゃ?」
 とりあえず貴殿野郎は警察行き確定か……ま、仕方ないな。
「スルガニャン、スルガニャン、スルガニャン……スルガニャーンッ!!!!」
 なにを言ってもダメだ、この男。完全に正気を失っている。駿可屋のトップである、スルガニャンがどうしても許されないようだ。
 くそ、こんなときに体が動かないなんて……。
 由宇君は気絶していた。だとしたら今動けるのはスルガニャンと塔子さん、お辞儀君だけだ。
「――ぼくに任せて下さい! スルガニャンッ!」
 一歩前へ出たのはお辞儀君だ。だが、彼の体格からして勝てる相手じゃない。どうするつもりだ?
「ぼくには長年ずっと頭を下げ続けて鍛えられた背筋と首筋がある。そこから繰り出される頭突き(お辞儀)はきっと岩をも砕くはずだ! くらえっ、お辞儀君・スペシャルヘッドバぐはああああぁっ!!」
 頭突きをする前に倒されてしまった。弱い……。
「女、お前も邪魔する気か?」
「わたしはスルガニャンの娘だ。父上を襲う輩に背を向ける道理はないッ!」
 男が塔子さんに襲いかかる。右手を伸ばし、塔子さんの肩を掴もうとした。
 それを塔子さんは左手で軽く捌き、空いた右の拳で男の顎を突き上げた。
「ぐっ……お……?」
 塔子さんは後ろに引いて距離を取る。男はどうだ? 倒れたか?
 ……いや、踏みとどまった。顎への一撃は強烈だった。なのになぜ沈まない?
「貴様、なにか武芸をやっているな?」
「ふ、ふふ。目が覚めたよ。女……やるな。お前もなにかやっているな? その動き、とても素人とは思えん」
「格ゲーから学んだ。自己流だ」
「自己流か。はっは、さすがスルガニャンの娘だな。やっていることがまるで意味わからん。わたしは学生時代、プロレス同好会に所属していてね。体力だけは自信があるんだよ」
「そんな奴がベックオフの社長だったとは思わなかったな。体力バカか? どうりで鈍いはずだ」
「なにィ……?」
 これは塔子さんの挑発だ。わざと男を怒らせ、隙のある攻撃を誘っている。
「スルガニャンもお前も死ぬがいいッ!!」
 男の取った行動は渾身の体当たり!
 しめた! これなら寸前でかわせば自爆する。塔子さんは腰を落とした。避けるタイミングを見計らっている。
 ギリギリまで男を引きつけて横に避けようとした。が、それに合わせて男も移動。
「なにっ?」
「すまないな、高校のときはラグビー部だったんだ」
 男が拳を振りかぶる。塔子さんはそれを肩で受けた。
「うっ……!」
「へへ、どうだ? 効いただろう」
 ダメだ……。すげぇ痛そうに顔を歪めている。右腕が動かないんじゃないかな?
 これってもうスルガニャンを守る人が誰もいないってこと?
「お前、おいらたちの仲間をよくも……」
「へっへ、スルガニャン。お前もこいつらと同じようにしてやる。わたしの怒り、思い知るがいい」
 スルガニャンは端に追い詰められていた。広い場所なら飛び回って逃げられるものを。
「うぅ、まずいにゃん。このままだとこいつに捕まるにゃん」
「いいコだ。なにもしないよ。だからおいで、さあ……」
 スルガニャン……スルガニャン……スルガニャンッ!!
 俺は力を振り絞って男の足にしがみついた。
「くっ、なんだお前? まだそんな力が残っていたか?」
「スルガニャンには傷つけさせないぞ。お前は俺が倒してやる」
「はっは! わたしをか? その体で? 冗談も休み休み言え。この死にぞこないが!」
 男は俺の頭を踏みつけた。でも俺は足を離さない。
「サイコー君、手を離すんだにゃ! おいらのことは放っておけばいいにゃ!」
「そんなことできるかよ……スルガニャンは駿可屋のアイドルなんだ。絶対に傷つけさせない。それに俺……愛しているんだ、スルガニャンを」
「サイコー君……」
 俺はあっけなくマウントを取られる。男の体重に胸にのしかかる。く、苦しい……。
「スルガニャンの前にお前を先に殺してやろうか、サイコー君!」
 こいつ、俺の名前も知っているんだな。まさかスルガイヤーなのか?
 くそ、意識が遠のく……。
「サイコー君!」
 スルガニャンの声が聞こえる。でも、こっちに来ちゃダメだ。スルガニャンもやられてしまう。
「サイコー君、がんばるんだにゃ!」
「スル……ガ……ニャン」
 男は俺の首を掴んだ。そのまま首を締めて殺す気か?
「ぐっ……」
「死ねっ! サイコー君も! スルガニャンも! 駿可屋のすべてがなくなればいいわ! ハッハッハ!」
 もう、ダメだ。マジ、死……ぬ。
 手を伸ばすが男には届かない。この体勢だ。将棋で言う詰みに近い。
 今まで、ありがとう。スルガニャン、塔子さん、由宇君、お辞儀君……スルガニャル子さん。
 俺、先に死ぬよ。ごめん。
 もっと皆と一緒に駿可屋を盛り上げたかった。俺が死んだらブログは誰が更新するんだろう?
 読者はどうなる? お客様はどうなるんだ?
 スルガニャンを悲しませたくない。スルガニャンはいつも笑ってなくちゃいけないんだ。
 そうじゃないと俺はあの世に行けないよ。
「サイコー君、これを使うんだにゃ!」
 俺の手になにかが当たった。それは固くて片手で握れるサイズのもの。
 俺はそれを確認することなく拾う。そして、スルガニャンが男に向かって言った。
「ハンパにゃい……? おい、ベックオフの社長! 答えるにゃ!」
「え? なに?」
「続きの言葉にゃ! ハンパにゃい……?」
「か……買取力?」
 隙ができた。スルガニャンが作ってくれた隙だ。
 男はスルガニャンのほうを見ていた。俺がなにかを手にしたことに気づいていない。
 反撃するなら今しかなかった。
 俺はそのなにかを振り上げた。
「がああああああぁぁぁぁ――――っっ!!!!」
 男は悲鳴を上げる。手応えがあった。男の目を突いたのだ。
 目は人体の急所の一つ。体が大きいだの小さいだの関係ない。この男も例外ではなかった。
 この勝負、もらった!
 男は俺から離れ、屈んで目を押さえていた。俺は近くにあったパイプ椅子で男を後ろから一撃する。……それで男はようやく、おとなしくなった。
 目潰しに、背後からの武器攻撃は卑怯だって?
 しょぼい俺がこんな大男に勝つにはこんなことでもしねーと無理だろ。
 これでも奇跡だっつうの。
 俺は床に転がっている黒いものに気がついた。
 ……なんだこれ? 俺には見覚えがあった。
「あ、これ。もしかして……」
 この黒いものはスルガニャンがいつもかけているサングラスだ。同時に悲鳴が上がる。男の悲鳴ではない。スルガニャンの悲鳴だ。
「うにゃあああああああ――――――――ッッ!!!!」
「スルガニャンッ??」
 スルガニャンは過去に脳移植をしている。スルガニャル子さんもだ。
 その結果、目に後遺症が残ってしまった。
 直接、光を目に浴びることは厳禁。それを防止するために彼らはいつも黒いサングラスをかけている。
 スルガニャンがサングラスをかけないのは部屋を真っ暗にして寝るときだけだ。
 スルガニャンが光を目に受けることで、これほど苦しむなんて俺は知らなかった。
 ……そんな大切なサングラス、なんで俺に渡したんだよぉ、スルガニャン!
「スルガニャン! サングラスをすぐかけて!」
「うにゃあ、うにゃあ! い、痛いにゃ! 目が痛いにゃ! サイコー君、サイコー君!!」
 スルガニャンは体をジタバタさせ、サングラスをかけることすらできない。
 俺が無理やりスルガニャンにサングラスをかけようとしたら、爪で手を引っ掻かれてしまった。
「スルガニャン、しっかりして! お願い!」
 どうしよう……スルガニャンのこの苦しそうな声を聞くと、俺まで胸が苦しくなる。
 あ……あれ?
 頭がクラクラするな。こんなときに。
 そうだ、俺もいろいろ重傷だった。ベックオフの社長に頭をガンガン蹴られて……。
 やばいぞ、今になって頭の痛みが本格的になってきた。やばい、本当……。

 ――もしかして、死ぬ?



posted by サイコー君 at 23:01 | Comment(0) | スルガニャン物語2(自作ラノベです) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

スルガニャン物語2(7)

  3 いざ、ベックオフ本社へ

 事務室には俺とスルガニャン、スルガニャル子さん、お辞儀君が集まった。
「うにゃー、貴殿野郎が単独でそんなことをしていたとは……」
「やったことは犯罪だけど、貴殿野郎はベックオフを崩壊させた。駿可屋のためを思ってね。貴殿野郎はまだベックオフ本社にいる可能性がある。そのまま警察に突き出されているかもしれないけどね。……どうする?」
「放っておいてもいいんじゃないかにゃる」とスルガニャル子さん。
「そうするのは簡単ですけど。でも……」
 俺がここへ来る前、おそらく駿可屋の買い物で世話になっていた。駿可屋の楽しい買い物の思い出は俺の宝だ。
 それに最後に言った彼の言葉が忘れられない。……俺、どうしたんだろう。スルガニャル子さんの言う通り、放っておけばいいじゃないか。そしたらベックオフも潰れたことだし、駿可屋に平穏が訪れる。でも、本当にそれで後悔しないのだろうか。
 貴殿野郎は駿可屋に携わるスルガイヤーだ。スルガイヤーだったらスルガイヤーを助けるのは当然のこと。やっぱり俺は貴殿野郎を放っておけない!
 それがスルガニャンやお辞儀君だったとしても、俺は同じ結論にたどり着くだろう。
「ねぇ、スルガニャン……」
「サイコー君。なにも言わなくていいにゃ。サイコー君の考えていることぐらい、おいらにはわかるにゃ。……行くにゃ、貴殿野郎を助けに」
「あぁっ!」
 というわけで俺たちはベックオフ本社に乗り込むことになった。
 メンバーは俺、スルガニャン、お辞儀君の三人。スルガニャル子さんは留守番。また俺たちがいない間に高級エステとか行くのだろうか。心配だ。
 俺たちは揃って外に出た。
「いってらっしゃいにゃる〜」
 スルガニャル子さんはご機嫌だった。この様子ではおそらく行くだろう。猫のエステなんかに何十万円もかけやがって。
 タクシー会社に電話をしようとしたところ、一台の車がこちらに向かってやってくる。
 タクシーか? だったら都合がいい。でも、やってくるのは高級そうな車だ。外車だな、あれ。
 俺たちの前で車は止まった。助手席から出てくるのは金髪の青年。……由宇君だ。
 梨本由宇。スルガニャンとスルガニャル子さんの息子さん。
「由宇君っ!」
「――あ、サイコーさん。あれ? 皆してどうしたんですか? もしかしてぼくたちが帰ってくることに気づいていたとか?」
 運転席からは金髪の美女……塔子さんが出てきた。相変わらずFFT(ファイナルファンタジー・タクティクス)のアグリアスに似ている。
「サイコーさん? それに父上と母上も……」
 そう言えばスルガニャル子さんはアメリカ人だった。猫の姿をしているから、そんなことすっかり忘れていたよ。
「君たち、どうしてこのタイミングで?」
 由宇君が答えた。
「サイコーさんのブログを見たからですよ。駿可屋がベックオフに勝負を仕掛けてるんですよね? だったらぼくたちもいたほうが有利かなぁって。今の時期、ぼくも姉さんも大学が休みなんですよ」
 そうだったのか。これは助かる! ただでさえ人が少なかったんだ。
 正直、スルガニャンとお辞儀君だけでは心細いと思っていた。この姉弟は即戦力になる。
「二人にお願いしたいことがあるんだ。それも早急に……聞いてくれるかい?」
「「もちろん!」」

 思いがけない助っ人に俺の胸は躍った。塔子さんは護身術をある程度心得ているらしいし、由宇君のコンピュータの知識はとても貴重だ。それに車もある。
「塔子さん、この車どうしたの? めちゃくちゃ高そうに見えるんだけど」
「この車か? 最近買ったものだ、FXで儲けたからな」
「君もFXやるの?」
「君も……とは? まさかサイコーさんも?」
「いや、違うんだけどね……。あー、でも負けてる人がいるってことは勝ってる人も確実にいるってわけね」
 これが才能というやつだよ、貴殿野郎。
 二人に事情を説明し、計五人(スルガニャン一匹含む)でベックオフ本社に向かうことになった。
「――ごめんね、本当は実家に戻ってゆっくりしたいところなのに」
「なにを言うんです。ぼくたち、駿可屋ファミリーじゃないですか。貴殿野郎さんが捕まっているんだったら助けに行く他ないですよ」
 いい奴だな、由宇君は……。
「しかし貴殿野郎がFXで三十億も損させるとは……ある意味、わたしより才能があるぞ、あの男」
 確かに。貴殿野郎の逆のトレードをすれば三十億儲かるってことだもんな。
「サイコーさん、ベックオフ本社に行くのはいいが、そこから先のことは考えているのか? そう簡単に建物の中に入れるとは思わないが」
 そうだ。それを考えないといけない。
 ウチの従業員がそちらで捕まっていると思うのですが、解放してもらえないでしょうか? ……んなこと言えるわけない。
「お引取りを」なんて言われるのがオチだ。
 だったら警察にウチの従業員が監禁されてます、なんて言ってみるか?
 それもまずい。最悪、俺たち全員が共犯で捕まってしまう。……ん? よく考えてみたらそうだよな。今回、俺たちに正義はどこにもないぞ。引き返すか?
「――サイコーさん。建物のセキュリティなら、ぼくが解除できますよ」
「由宇君……」
 マジでそういうのできるの? すっげー頼もしいんだけど、これ以上罪を重ねることにならないかなぁ?
 そうこう考えているうちに車は東京に着いた。
「あと二十分ほどでベックオフの本社に着く。皆、心の準備を」
 ここまで来たら腹をくくるしかないか。例えどんな手を使ってでも貴殿野郎を助ける! あとのことはあとで考えよう。
 ……もしかしたら破滅のパターンになるかも?

 ベックオフの本社に着いたとき、辺りはすっかり暗くなっていた。
 従業員は大方帰っているだろうから、残っているとしても数名だ。不法侵入するには絶好の機会!
 ん……? なんか思ってたよりずっと小さいな。もっと五十階建てのビルとか想像してたけど四階までしかない。
 辺りは住宅地っぽいし。真っ白な建物だった。
「塔子さん、ここ本当にあのベックオフの本社? 間違ってない?」
「ここが本社だ。わたしはナビ通りに車を動かした。不安ならネットで検索したらいい」
 別に塔子さんを疑うわけじゃなかったが念のために確認。……マジだ。この白い四階建が正真正銘ベックオフの本社。
 セキュリティなんて言葉が似合わない。よし、とりあえず普通に建物に入れないかやってみるか。
「皆は車の中でちょっと待ってて」
 入り口には警備員が一人、大股を開けて立っていた。
「あの、すいません。中に入ってもよろしいでしょうか?」
「ご用件はなんでしょう?」
「見学です。憧れのベックオフ本社の建物の中に一度入りたかったもので」
「……申し訳ありませんが、お引取りを願います。もう時間も遅いですし、また後日改めて来ていただけますか?」
 ダメだったか。予想通り断られてしまったな。車に戻って作戦を立てよう。
 すると、お辞儀君に妙案があるとのこと。彼お得意のお辞儀で中に入らせてもらう手だ。
 塔子さんの色気で迫る手も考えたが……まあこの際試してみるか。彼から発言することも珍しかったし。
 さて俺は車の中に戻り、今度はお辞儀君が警備員に近づいた。うまくやってくれよ。二人のやり取りはかろうじて聞き取ることができた。
「あ、あの……中に入らせてもらえませんか? ちょっとでいいんです」
「誰だ、アンタ? ……ダメダメ。悪いけど帰って。また明日にでも来て下さい」
「そんなこと言わず、ね? お願いしますからぁ」
 すごいスピードで頭を下げてる。さすがお辞儀君だ。しかし、その効果は薄そうだな。
 中年の警備員は首を縦に振ろうとしない。やはりここは塔子さんの色気でいくしか……。
「お願いしますよぉ、お願いしますったら!」
「ダメなものはダメですって! もう、しつこいなアンタ。いい加減にしてくれ!」
「お願い……しますっ!」
 ――ドガッ!
 ……ん?
 あ、あれ? 警備員が倒れた? なんで? え?
 一瞬の出来事だった。なにが起こったのかよくわからない。お辞儀君が警備員にお辞儀をして倒れた? ……ように見えたんだけど。
 お辞儀君はこっちに走って戻ってきた。警備員はまだ倒れたままだ。
「サイコーさん、中に入れますよ」
「お辞儀君? 君、なにをしたの? 警備員の人、倒れてるみたいだけど……?」
「お辞儀ですよ。……でも、ちょっと頭が相手に接触してしまいましたけどね」
 それ、世間では頭突きって言うから。



塔子さんイメージ。


スルガニャル子推奨。

posted by サイコー君 at 12:03 | Comment(0) | スルガニャン物語2(自作ラノベです) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年10月26日

スルガニャン物語2(6)

 CD箱は売れ続けた。
 そんなある日、ブログにこのようなコメントが書かれた。
『サイコー君、俺も取引停止メールが届いたよ。お前とはもう取引しねぇ。もうライバル業者からのダンボール送ってくるなって。俺、やったよ。ベックオフに一泡吹かせたよ!』

『二十箱送りました。案の定、取引停止メールが来ました。やりました。駿可屋バンザイ!』

『わたしにもメールが届きました。えぇ、取引停止メールです。噂は本当だったのですね。喜んで退会しましたよw』

 ――と、続々と結果報告が届いた。
 皆、よくやってくれた。これでベックオフも目を覚ますだろう。お客様をないがしろにした結果がこれだ。
 いつまでも業界トップだと思っているのも今のうちだった。
「よし、いい感じだ。まずは計画通りって感じだな」
「サイコー君、大変だにゃ!」
「なに、どうしたのスルガニャン?」
 スルガニャンが慌てた様子で事務室に入ってきた。なにかあったのか?
「貴殿野郎が姿を消したにゃ!」
「貴殿……無断欠勤か?」
「わからないにゃ。でも、ケータイに電話しても繋がらないにゃ。電源を切ってるようにゃ」
「あいつ、こんな忙しいときに。またFXでもやってるんじゃないだろうな」
 とりあえず五十回ぐらい鬼電した。……が、それでも出る気配はない。駿可屋を裏切ったか?
 最近ちょっとイジメすぎだったからな。拗ねているのかもしれない。でも無断欠勤はないだろう。まったくどうしようもねぇな。
「貴殿野郎のことは保留だ。さあ、俺たちも梱包の手伝いだ、スルガニャン」
「ラジャにゃっ!」

 ――それから一週間がたった。CD箱はまだ売れ続けている。
 ブログだけの報告で、ベックオフを退会したのは百六十二人になった。四桁まではまだまだか。
 プルルルル、プルルルル……。
 電話? 誰からだろう? ……あ、こいつ。貴殿野郎だ。
 貴殿野郎はこの一週間、ずっと無断欠勤をしていた。今までどこをほっつき歩いてやがったんだ?
「貴殿野郎、お前――」
『サイコー殿でござるか? 吾輩、やりましたよ。やってやりました!』
 まるで悪びれていない。意味がわからん。ハイテンションなのもわからないし。まず初めの一声は「申し訳ありません」だろうが。
「あんたな、この数日、無断――」
『FXですよ。FXやっていました!』
 人の話を聞け! ……ん? なに、FX? こいつ、FXって言ったのか? 
 無断欠勤してFXって、それってもうクビにして下さいって言ってるのと同じことだろうが。
「貴殿野郎、あんたそういう奴だとは思わなかった。変な奴だけど駿可屋のことだけは裏切らないって――」
『吾輩はベックオフに行ってたんでござるよ、サイコー殿。それも従業員としてね』
 まさか。……ってことはスパイ?
 確かスルガニャル子さんが冗談でそういうことを言っていたな。あれを真に受けたのか? ……だが、それとFX。どういう関係があるんだ?
『ベックオフに忍び込んで、会社の金でFXをやったでござる。もちろん大負けでござるよ。ハ、ハ!』
「いや、待てよ……それ、普通に犯罪じゃねぇか。捕まるぞ、貴殿野郎」
『いいのでござるよ、サイコー殿』
 どういうわけだ。捕まるって言ってんだよ。
 駿可屋でする不正とはワケが違う。ベックオフにお前をかばってくれる人間なんていないんだぞ。
『吾輩は駿可屋に大きな恩を感じているでござる』
 どうでもいいが語尾が「ござる」で安定してきたな。
『吾輩、幼少の頃からバッハとかモーツァルトとか呼ばれていたでござる。バッハの忍者とか、忍者のバッハとか。もうワケがわからんくてなー。吾輩は世間から取り残された疎外感があったんじゃ』
 と思ったら今度はジジイっぽくなった。はっきりキャラの方向性決めろよ、貴殿野郎!
『だが、駿可屋は吾輩を受け入れてくれた。大切なショップの箱にも吾輩のイラストが描かれている。今は降格となってしまったが、通販部兼買取部のチーフにもなった。吾輩が駿可屋で働いたことは誇りでござる。だからこれは恩返しでござる。例え、我が身が滅びようとも――な、なんでござるか、お前らっ!!』
 貴殿野郎? なに? なにがあった?
「貴殿野郎、どうした?」
『くっ……どうやらベックオフの社員に見つかったようでござる。今、警備員を呼ばれた。クソッ! 来るな、来るなでござる!!』
「貴殿野郎……早く、早く逃げて!」
『サイコー殿、吾輩はどうやらここまでのようでござる……クッ、押すな! これで少しはFXの罪も軽くなったでござるか? FXの罪はFXで返すでござる。これからの駿可屋を頼み申しましたぞ、サイコー、殿……』
「貴殿野郎? ……貴殿野郎っ!」
 貴殿野郎の声がどんどん遠くなっていく。ベックオフの社員に捕まったようだ。
 命を懸けた行動だった。
「貴殿野郎……ふざけた野郎だとばかり思っていたのに。最後の最後にやってくれたな……」
 貴殿野郎がベックオフの金を使ってFXで出した被害額はおよそ三十億円。
 どうやったらこんな短期の間にこれだけ損失を出せるのか不思議に思ったが、FXならそれも可能か。
 取引の枚数を増やせばいくらでもリスクのある取引ができる。
 ここでプラスでなく、確実にマイナスに持っていくとはな。根っからFXの才能がない。
 CD箱でベックオフに大きなダメージを与えた。しかし、トドメを刺したのは貴殿野郎の勇気ある行動だった。普通に犯罪だったけど。
「自業自得だよ、あいつ……」
 このまま貴殿野郎を放っておいていいのだろうか。あんな奴でもいなくなると少しは寂しくなるかもしれない。
 とにかくスルガニャンと皆に報告だ。




posted by サイコー君 at 21:20 | Comment(0) | スルガニャン物語2(自作ラノベです) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

スルガニャン物語2(5)

  2 ベックオフを潰す方法

 緊急会議を開いた。もちろん議題はベックオフに関するものである。
 事務室に集まったのは俺とスルガニャンの他に、スルガニャル子、お辞儀君、貴殿野郎の三人と二匹だ。
「――そういうわけで残念ながらスルガイヤーの一人が亡くなってしまいました。ベックオフが取引停止さえしなければ、ふりかけさんが死ぬことはなかった。ベックオフに勝つというのはベックオフを撤退させることだと考えています。では勝つにはどうすればいいか? 意見のある者は遠慮なく挙手を」
「にゃるっ」
 手を……いや、前脚を上げたのはスルガニャル子さんだった。ちょっと意外。
「スルガニャル子さん。どうぞ」
「貴殿野郎をベックオフのスパイに送ったらいいにゃる。そこで会社のお金を使ってFXをやるにゃる」
「またFXネタか……もうそれはいいですよ。飽きてますよ、皆さんきっと。他にある者は?」
 ある人は? って言ってもいいんだけど、スルガニャンとスルガニャル子さんがいるからな。ある人と猫は? って言うのもなんだか変な感じだし。
「にゃい」
 前脚を上げたのはスルガニャンだ。なにを言ってくれるのだろう。
「貴殿野郎を買い取りに出したらいいにゃ」
 貴殿野郎ネタか。あいつはもうお笑いキャラだからな。
「待て、待つでござる! なぜ吾輩だけこのような扱いを受けるのか? 拙者、納得できんでごわす!」
「あんたが勝手に会社のお金を使ってFXやってたからだろうが。この野郎……」
「サ、サイコー殿。目が怖いでござる」
「お辞儀君はなにかないですか? もしあったら遠慮なく」
「いえ、ぼくは遠慮なんかしていません。ごめんなさい、アイディアありません。すみません。ごめんなさい!」
 お辞儀君は頭を下げてばっかだった。……なんだよ、駿可屋のメンバーってこんなに頼りないのばっかりだったっけ?
 塔子さんと由宇君がいたときはこんなんじゃなかったような……。二人の大切さが今になって実感した。
「スルガニャル子さん、ちょっと香水くさいですよ。なんかつけてるでしょ?」
「わかったにゃるか? さすがサイコー君にゃる。これはトルコから取り寄せたローズオイルにゃる。とってもいい香りだにゃる。三万円で買ったにゃる」
「高いですよ。来月のお小遣いから引いておきますよ。もう……」
「なんと! スルガニャル子殿はトルコがお好きだったのでござるか? トルコは金利が高くていいでござるなー」と貴殿野郎。こいつ、また話をFXにしようとしてるよ。全然懲りてない。
「貴殿野郎もなにかアイディア出してよ。それ次第で減給の期間とか短くするからさ」
「そうでござるなー。CD箱の値段を下げてみるのはどうでござるか?」
「下げるって……四百五十円でもギリギリなんだよ。安くしてどうするの?」
「いやぁ、ふりかけ殿がCD箱をベックオフに売って、取引を停止させられたでござる。だからたくさんの人が同じことをするんでござるよ。だったらベックオフは何千、何万の顧客を失うことになるでござる」
「それ……正解じゃないか。いい! いいよ、貴殿野郎! なにあっさり答え出してんの? 全然期待してなかったのに!」
 いいアイディアが出た。確かに貴殿野郎の言う通りだ。
 しかしなんという発想だ。俺は駿可屋のメリットを増やすことでベックオフの顧客を取り入れようとしていた。貴殿野郎の考え方はまったく違う。
 あえて駿可屋の顧客をベックオフに紹介する。駿可屋とベックオフの両方を利用するお客は多いからな。
 ベックオフは彼らにも取引停止メールを出すだろう。
 一人や二人、顧客がいなくなってもベックオフはなんとも思わない。でもそれが千人や二千人だったらどうなる? きっとベックオフはあせるはずだ。
 一万、二万にまで膨れあがるともう手遅れ。気づけば、お客さんはゼロだぜ。そうなれば確実に潰れる。
「スルガニャン、CD箱の値段を下げるんだ。値段は……三百八十円! そう、これしかない!」
「ラジャにゃっ!」
「あんた、がんばるにゃる」
「ご、ごめんなさい。いいアイディアが思い浮かばなくて。すみません」
「ふふ、これでもしかしたら臨時ボーナスが出るかもしれんでござるな。そうなったらもう一度FXで勝負をかけてゆくゆくは金持ちに……」
 価格変更のやり方は以前、担当だった由宇君から教わった。
 俺はキーボードを叩いてCD箱の値段を変更する。四百五十円から三百八十円だ。はっきり言って赤字。
 値段の変更と同時に、俺はブログでスルガイヤーに呼びかける。ふりかけさんの死について。そして俺たちがベックオフに闘いを仕掛けるということを伝えた。
 この作戦にはスルガイヤーの協力が必要不可欠だ。彼らが駿可屋を助けてくれる気持ちがあるのなら、必ず駿可屋は勝つぞ。

 ――それから二日がたった。
 ブログにCD箱の価格が下がったことを宣伝したこともあり、CD箱は八百箱を売り上げた。
 これらをすべてベックオフに売りに出す!
 ふりかけさんは十箱で一万五千円になったと言った。ということは八百箱だと約百二十万か。それほど大きな額ではない。
 買い取り金額でベックオフに致命的なダメージを与えることはできないな。
 顧客の減少がなによりも効くはず。こういう悪評はすぐに広がるもんだぜ。
 ネットサイトでこけりゃあ、店舗経営にも影響が生じる。案外、あっさり崩れるかもしれない。
「サイコー君、CD箱が飛ぶように売れてるにゃ!」
 俺は事務室で売上データを確認していた。そんなときにスルガニャンが部屋にやってくる。
「まだ在庫はあるかな?」
「大丈夫にゃ。まだまだあるにゃ」
 頼もしい言葉だ。……おっと、電話だ。誰からだろう。
 履歴を見ると株式会社YOUKAIの黒田さんからだ。どうしたんだろう。
「はい、駿可屋の涼野ですが」
『サイコー君ですか。この間はどうも』
「はい、どうも……」
『ブログ見ましたよ。ベックオフと勝負するんですって? わたしたちも微力ながらお手伝いさせてもらいますよ。CD箱を百箱買わせていただきます。ベックオフは一度に二十箱しか送れませんが、五人の従業員が送れば問題ありません。ふふ、ベックオフの倉庫が駿可屋のダンボール箱だらけになってしまいますね』
 なんと嬉しいことだ。この前はパクリだのいろいろと責めたのに。やはり駿可屋は愛されるショップというわけか。ありがたい!
「助かります。ありがとうございます!」
『はは、礼には及びませよ。あ、その代わりと言っちゃあなんですが、スルガニャンの写メでも送ってくれませんか? オカズに……いや、娘が欲しがっているもんでして。ハ、ハ!』
 ったく、相変わらず図々しいな。それにしてもオカズって言ったよな? ……この野郎、スルガニャンをオカズにしてるのか? 変態野郎か。
 ま、それでも協力してくれるのは嬉しい。百箱か。人手が足りなさそうだな。遅延を起こす前に俺も通販部に行って手伝うか。
 プルルルル、プルルルル……。
「また電話か。――はい、涼野です」
『サイコー君? ブログ見ましたよ。ベックオフと闘うんですね?』
「え、誰……?」
 履歴を確認して電話を取らなかった。耳をケータイから遠ざける前に、彼はこう名乗った。
『クロガネ君ですよ。以前はお世話になりました。おかげで念願のクロガネのサントラCDを手に入れることができました。本当にありがとう!』
「クロガネ君? ……いやぁ、懐かしい。サントラCDはどうでしたか? 音飛びなんかしていませんか?」
『えぇ、状態は完璧でしたよ。金庫に入れて保管しています。これはぼくの命そのものです。例え強盗が入って肉親を人質にされても、このクロガネのサントラだけは渡せませんよ』
 クロガネ君……スルガニャル子さんを探してくれた青年だ。
 そのお礼として駿可屋は彼にクロガネの翼のサントラCDをヤフオクで落札してプレゼントした。
 クロガネの翼はパソコンゲームで、サントラCDはソフマップの予約特典だ。
 彼は2ちゃんの駿可屋スレで何度もクロガネアピールをした。その粘り強さは賞賛に値する。
『クロガネのサントラの恩返しをさせて下さい。ぼくも闘いますよ、ベックオフと』
「本当ですか? それは非常に助かります。ありがとうございます!」
『サントラを落札するのに数百万円使ってくれたのは知っています。だから今回は百六十万円分のCD箱を買わせていただきます。これが今ある、ぼくの全財産です』
 百六十万……。ということは四千箱? そんなに在庫あるかな。
 CDの枚数にして八十二枚✕四千箱。クロガネ君、買ってくれるのは嬉しいけど家の中に入らないだろ。
「お気持ちは嬉しいですが、ベックオフの買い取りは一度にダンボール二十箱です。四千箱はちょっと……」
『そうですか……そうですよね。すみません、あまり考えずに言いました。ではこうしましょう。購入は六十箱。三回に分けて発送します。あとはですね、地元の友だちに頼みますよ。購入代金を渡します。五十人に頼んだら二十箱✕五十人で千箱分ですよ。これでベックオフの倉庫を圧迫できます』
 圧迫するだけじゃない。買い取り作業には人手が必要になる。駿可屋はCDを詰めてお客様に発送するだけだが、ベックオフは一品一品、検品しなくてはならない。商品ごとに買取価格を伝えるのをウリにしているようだからな。
 だが、そのシステムも今では相当な負担。
 検品にかかる時間はあまりに膨大。人手がかかるということは人件費にもダメージを与えることができる。
 貴殿野郎、なにげなく言ったのかもしれないが、確実に敵の急所を突いている。すげぇ作戦だ。
「ありがとうございます。スルガニャンも喜びます。では、よろしくお願いします」
 それからは黒田さんやクロガネ君以外でも、協力してくれる人たちが多数名乗りでてくれた。
 これが駿可屋の力だ。資本金や売上だけが会社の力ではない。
 お客様こそ、駿可屋の財産。力なのだ!

クロガネの翼 | 通販ショップの駿河屋

posted by サイコー君 at 14:32 | Comment(0) | スルガニャン物語2(自作ラノベです) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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