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2014年07月27日

俺とスルガニャンとクロガネの翼(3) *この物語はフィクションです

第二章 駿河屋社員

  1 スルガニャンの秘密

 静岡の駅に着いた俺は、さっそくスルガニャンが用意してくれたマンションに向かった。
 ……中はごく普通。ワンルームの部屋だ。
 残りの引っ越しの荷物は明日に届くという。本格的な仕事は明後日からだな。駿河屋本社に顔だけ出しておくか。というかスルガニャンに会いたいのが本音なんだけど。
「――スルガニャーン♪」
 本社の受付でつい口走ってしまった。そこにはジト目で俺を見る塔子さんが座っている。
「お前は……?」
「あ、すみません。つい……この度は採用していただきまして、誠にありがとうございました! スルガ……いや、社長に引っ越ししてきた旨をお伝えしようと参上したまでです、はい。……もしかして留守にしていらっしゃいます?」
「スルガニャンは地下にいる。お前はもう我が社の社員だ。見学を兼ねて行ってみるか?」
「えっ、いいんですか? 行きます、行きます。連れてって下さい」
「わかった。ちなみに地下は主に検品スタッフが働いている。エレベーターで行くぞ」
 俺は塔子さんと地下に行くことになった。そこでエレベーターの中で俺はこんな事を聞いた。
「あの、駿河屋の地下では地底人がいるという噂を聞いたのですが……ウソですよね?」
「本当にいるんだと考えているのなら、お前の頭は相当やばいぞ」
「あ、すみません。一応聞いただけです……」
 やっぱり2ちゃんの噂なんてウソだったんだ。くそっ、これで塔子さんが持つ俺のイメージが悪くなったじゃないか。
 地底人の給料はうまい棒なんですか? って先に聞かなくてよかったぜ。
 ちなみに地下は二階までだな。エレベーターには一階と二階。それにB一とB二しかない。――地下一階に下りると、そこはまるで図書館のようだった。
「広い……それになんて棚の多さだ」
 駿河屋の取り扱う商品は果てしなく多い。もうホント商品だらけ。これじゃあたまに検品ミスするのも仕方ない、なんて思ってしまう。
「商品の点数がハンパないからな。さらに毎日のようになんらかしろの新商品が増える。いずれ地下二階だけでは品物が置けなくなるぞ。そうなったら古い順から商品をなくてしていくかな。在庫は福袋に詰めて」
「あ、ダメですよ。古いものも置いてあるから駿河屋は楽しいんです。そんなことしたら客は泣きますよ?」
「う、む? そうなのか? まあ、貴公が一番客の気持ちを知っているからな。その意見はスルガニャンにも伝えておこう」
 ……この人、俺のことを貴公なんて言ったよな? そんなの初めて言われたよ。
「あの、スルガニャンはどこに?」
「たぶん検品の様子をチェックしているのだろう。部屋の中心にはスタッフの机がある。そこで一人一人が責任を持って検品するわけだ。ついてこい」
 俺は塔子さんと部屋の中心に進む。……すると、いたんだ。スルガニャンが。
 スルガニャンは机の上に座って指示を出している。あのアフロみたいなおっさんに。
 ……ん? アフロ? 駿河屋とアフロ……。あれ? なんかこの組み合わせに記憶があるんだけど。まあいっか。今日もスルガニャンのサングラスは決まっていた。いつかあの肉球を触らせてもらえるようにお願いしよう。
「スルガニャーン!」
「あ、この声……あいつかにゃ」
 スルガニャンが俺に気づいた。それと同時に、スルガニャンと話していたアフロの男も俺のほうを向く。……え、まさか?
 アフロは白髪で、髭が左右の方向にぴょんぴょんと出ている。年齢は五十歳ぐらいか。……俺はこの男を知っている。
「貴殿野郎??」
「む……貴殿は一体?」
「貴殿って言った! ……あぁ、やっぱり貴殿野郎だ!」
 貴殿野郎――それは駿河屋から送られてくるダンボールに「ウム! 貴殿の〜」なんてイラストになっている男だった。
 ちなみにスルガニャンが描かれているダンボールもある。基本的にスルガニャンはそのダンボール以外、表には出ていない。貴殿野郎もそうだ。ダンボールにだけ存在するキャラクター。
「キャラクターじゃなかったんだ……ちゃんといた。本人が」
 それに話し方も貴殿野郎そっくりだ。まさか名前まで貴殿野郎じゃないだろうな。
「貴殿、某のことを貴殿野郎と呼ぶのはなぜでござるか?」
「あ、すいません。ここの社員の方だったんですね。ご挨拶が遅れました。この度、こちらで働かせてもらうことになりました、涼野守といいます。販売する立場ではわからないことだらけなので、いろいろとご迷惑をおかけすると思います。よろしくお願いします」
 俺は頭を下げた。
「そうか、君か。スルガニャンから話は聞いているよ。それにしても貴殿野郎とは? 某は響木虎丸と申す者だが……」
 響木っていうんだ。なんか普通だな。ってか、日本人だったのか。モーツァルトとかバッハっぽいのに。紛らわしいな……。
「すみません。ダンボールのあなたのイラストが、貴殿がうんぬんと書いていたので、貴殿野郎なんてニックネームをつけていました」
「む? 響木を貴殿野郎と呼ぶとは……?」
 スルガニャン? 怒ったの? ……いや、違う。これは怒った顔じゃない。
「お前、もしかして……サイコー君か?」
「えっ? スルガニャン、俺のブログ見てくれてるの?」
「「サイコー君??」」
 その声で周りのスタッフが手を止めた。
 ……ん、外人っぽい人ばっかりだぞ。外人ハンコ! 本当だったんだ!
「スルガニャン、外人ハンコ……――」
「待て! 慌てるな。ちょっとおいらにも整理させろにゃ。……もう一回聞くにゃ? お前は駿河屋が最高! の管理人、サイコー君にゃのか?」
「えぇ、そうですけど……」
「そうか。なるほどにゃ。だったら先日の筆記試験や面接、実技に関しても納得がいく。しかしまさか、サイコー君が駿河屋に入社してくるとはにゃ」
「え、もしかしていけませんでしたか……」
「いや、そんなことはないにゃ。なにせ、こんなに変態だったとは思わなかったからにゃ」
「そんな? 俺はいつだってスルガニャンラブですよ? ブログにもいつもそう書いているじゃないですか?」
「えぇいっ、うっとうしいにゃ! 近寄るにゃ! 肉球を触ろうとするにゃ! 頭を撫でようとするにゃ!」
「そんな……厳しい、スルガニャン」
 俺は思わずそこで泣いてしまうところだった。
「駿河屋のスキルを持っていることはわかった。今度は買うほうから売るほうに知恵を使ってほしいにゃ。いいにゃ?」
「もちろんです! スルガニャン!」
「……お前、おいらのことは社長と呼ぶにゃ。どうもなめられているようで気分が悪いにゃ」
「それだけは! それだけは譲れないです。俺はスルガニャンって言いたい! スルガニャン、スルガニャン、スルガニャン、スルガニャン、スルガニャン、スルガニャン、スルガニャン……」
「わかったにゃ! うるさいにゃ! 黙るにゃ! ……お前はマジでここで仕事をする気があるのかにゃ? それとも遊び半分のつもりかにゃ? 答えるにゃ」
「俺はスルガニャンのためだったらなんでもします。……だからあなたをスルガニャンと呼ばせて下さい」
「……ふぅ、ここまでいくともう病気にゃ。わかったにゃ。とりあえず、おいらのことはどう呼んでもいいにゃ。その代わり、戦力ににゃらないとわかったら、こっちの判断で首にするにゃ。それでいいかにゃ?」
「はい! スルガニャンのためならどこまでも!」
 スルガニャンは頭を抱えた。そして机から飛び乗り、小さく「ついてくるにゃ」と言った。
 俺はスルガニャンについていく。
 スルガニャンはいくつもの商品棚の中で、ポツンと置いてあるテーブルのところで足を止めた。そこには二脚の椅子がある。
「ほら、ここ。お前は向こうに座るにゃ」
「はい……」
 スルガニャンも椅子に座る。
「ここのほうが静かにゃ。ちなみにここは検品しながら、ちょっと誰かと話すときなんかに使う机と椅子にゃ。ま、普段だったら誰も使わないようなところにゃ。……さっきお前は外人ハンコがなんとかって言ったにゃ?」
「えぇ、外人ハンコです。俺たちスルガイヤーの間ではとても人気で、俺は毎回捨てずに取っています。領収証……」
「ふむ、そういう噂は聞いたことがあるけど、真実だったかにゃ。お前が言うんならそうなんだろうにゃ」
「えっと、これです……」
 外人ハンコを集めたスクラップブック。俺は日頃から持ち歩いていた。
「うわっ、にゃんだこれは? ……本当に頭、大丈夫かにゃ?」
「大丈夫ですよ。まだ五十五人しか集めていないんですけどね。ケンにマイケルにシン、チャルに、ソックスにバットに、トネルにパクチュにザネール、ジェイン、サマーン、ヨーク……」
「もういいにゃ、もういい。……おいらはスルガイヤーをなめていたにゃ。まさか外人ハンコでこんなに盛り上がっているなんて夢にも思わなかったにゃ」
「なんか嬉しいんですよね。日本人のハンコは普通だから……。スルガニャンのハンコはないんですか?」
「あー……持ってるにゃ。おいらもたまに検品やったあとに押してるにゃ」
「ウソ? ホントに? 超マジレアじゃん! 欲しい、スルガニャンハンコ欲しいっ!!」
「えぇいっ、うっとうしい! お前が駿河屋で買いまくったらいいにゃ。たぶん十万個に一個ぐらいの割合で押してるにゃ」
「十万個ぉ……どんだけレアなんだよ、スルガニャン……」
「こら、タメ口になってるにゃ。おいらは社長だにゃん」
「だにゃんって言った。だにゃん……かわいい」
「もうお前はここの社員だにゃ。もっとしっかりするにゃ。ついでに他に聞いておきたいことはないかにゃ?」
「あります! ……そうですね。では、外人ハンコの流れからして……なぜ駿河屋では外国籍のスタッフが多いのでしょうか?」
「それは説明するには、おいらたちのことをまず説明する必要があるにゃ。心して聞くように」
 スルガニャンの話したことは俺の想像を遥かに超えていた。
 そもそもなんでスルガニャン……猫が言葉を話せるのか。普通に考えてまずそこだろう、つっこむところは。
 スルガニャンは約十年前に、アメリカで交通事故に遭った。……そうなの? そういう設定なの?
 体の臓器や骨はボロボロ。いつ死んでもおかしくないという状況だった。そして隣の席に座っていた奥方もスルガニャンと同じような状態になってしまった。――って、スルガニャンって男だったの? それも人間? しかも奥さんいたの? ……結婚してたんだ。
 こんなの全然予想していなかった。スルガニャンが実は普通のおっさんだったなんて。
「でもスルガニャン。君はこんなにかわいらしい猫ちゃんじゃないか。君の話はとても信じられないよ」
「うるさいにゃ。話にはまだ続くがあるにゃ。それよりまたタメ口になってるにゃ。いい加減、自分がここの社員だという自覚を持つんだにゃ」
「ごめん、スルガニャン……」
「ほら、またぁ」
 奇跡的にスルガニャン夫婦の脳にダメージがなかった。そこで医師は考えた。脳移植をしよう。

 脳移植――記憶転移とは、臓器移植に伴って提供者(ドナー)の記憶の一部が受給者(レシピエント)に移る現象である。
 そのような現象が存在するか否かを含め、科学の分野で正式に認められたものではないが、テレビのドキュメンタリー番組で取り上げられたり、この現象を題材にした小説等が作られており、専門家以外にも知る者のいる現象となっている。

 ……とまあ、ググったらこんなことが出てくる脳移植。人間の脳を猫に移植したというのか?
「おいらは日本で、おいらの嫁はアメリカで手術をすることになった。これがどういう意味かわかるかにゃ?」
「少しでも生存確率を上げるため……アメリカで失敗したとしても、日本で助かる可能性もあったから。その逆ももちろんあり得る」
「そうにゃ。嫁のほうが危ない状態だったから、おいらが日本に行くほうになったのにゃ」
「スルガニャンは助かった……じゃあ、奥方は?」
「うん、生きている……生きて、日本に来たそうにゃ。でも、ちょっとした行き違いがあったんだにゃ」
 二人が手術をし、先に意識を戻したのはスルガニャンだった。
 スルガニャンの子ども――日本名で梨本塔子と由宇は、日本で生活することになり……いや、ちょっと。待って、ねぇ、お願いだから待って?
「塔子さんと由宇さんって、スルガニャンの子どもだったの?」
「そうだにゃ。事故が遭ったのは十年前。二人の子は当時、十二歳と十歳。今ではもう大人にゃ」
 子どもだったのか……。じゃあ家族経営ってことか。だったらもしかして……。
「貴殿野郎も家族とか?」
「貴殿野郎はただのスタッフにゃ。……まだ続きがある。聞け」
 スルガニャンの奥方はなかなか意識を取り戻せなかったようだ。奥方の意識が戻るまで、スルガニャンは二人の子どもと日本で生活を送ることにした。この静岡県で。
「静岡が実家なの、スルガニャン?」
「うん、そうだにゃ。で、子どもたちが日本に来たのはこのときが初めてだったにゃ。嫁はアメリカ人でにゃ、塔子と由宇はハーフなんだにゃ」
 へー、そういうことか……。
「まあ、日本に来る前から興味は持っていたみたいだけど、特に気に入ったのがオタク文化。アメリカでもコスプレとかしていたにゃ。FFTのアグリアスとアルガスのコスとか言って」
「あぁー! 似てる! そういや似てる、あの二人!」
「いや、だから……おいらも子どもたちもお前の上司にゃ! それ、マジでわかってるかにゃ?」
「わかってます。わかってますにゃ……あれ? 俺もスルガニャン語に?」
「話を続けるにゃ。いくらおいらの体が健康になってもにゃ、猫であることには変わらないにゃ。そのため普通の会社で働くことはできんにゃ」
 まー、それはそうだろうな。でも猫カフェとかで働いたいいんじゃあ……あ、でもそれだけだと奥方の莫大な治療費なんて到底払えないか。
「でにゃ、治療費どころか明日食うお金もなくなってきたにゃ。で、なんとなーく、子どもたちが持っていたフィギュアをヤフオクで売ったにゃ。三百円ぐらいにでもなったらいいなーって感じで」
 ヤフオクで物を売ったというならプレミアム会員になっておく必要があるな。スルガニャン、プレミアム会員だったんだ。っていうか、そんなにお金がない状態で毎月五百円もよく払えたね。ネットの通信費だってかかるのに。
「三百円だと思っていたフィギュアは五千円で売れたんだにゃ」
「えっ? なんでそんなに高値が?」
「おいらたちも知らなかっただけど、それは食玩のシークレットだったみたいだにゃ。もうビックリしたにゃ。で、振り込んでもらったお金で食べ物を買ったにゃ」
「体が猫なら食べるものも猫用に……」
「うん、キャットフードがたまらんことなく、おいしく感じたにゃ。初めは冒険だったけど、今ではもう大好物になってしまったにゃ。……脱線したにゃ。ヤフオクで転売を繰り返すようになって、買取とかも始めたにゃ。で、なんかうまいこと安く仕入れて、高く売れて、利益もどんどん上がっていったにゃ」
「それ、もしかして……それが駿河屋の始まり? なの?」
「うん、そうだにゃ」
 初めは個人の転売からだったんだ。それがこんな大きな会社になって……。
「だから商品のそれぞれが転売厨に優しい設定になってるんですね?」
「そうにゃ。ウチで扱う福袋を利用すれば簡単に儲けが出るにゃ。サイコー君はそれを実践している。前にブログを読んだにゃ」
「もしかして、CD箱を十箱ずつ、ブックオフオンラインとネットオフで売ったら、どっちが高く買い取ってくれるかって記事、あれ読んでくれたんですか?」
「読んだにゃ。ブックオフオンラインは+四千円。ネットオフはギリギリでマイナス……だったかにゃ?」
「えぇ、ネットオフの三十パーセント割り増し買取のキャンペーンを使っても、ブックオフオンラインには勝てませんでした。ブックオフオンラインの圧勝です」
「そこまで検証することができるなら、きっと駿河屋本社でも利益を出すことができるにゃ。……えっと、どこまで話していたかにゃ?」
「転売から駿河屋を始めたってところまでです」
「そうだったにゃ。駿河屋の経営が軌道に乗った頃、アメリカで治療を受けていた嫁の意識がやっと戻ったにゃ。少しリハビリして退院することができたにゃ」
「よかったじゃないですか。……ってことは奥方が日本にいるんですか?」
「嫁はおいらに会いたがったにゃ。おいらももちろん歓迎したにゃ。本当はこっちからアメリカに行ってやりたかったんだけど、まだ駿河屋をおいら抜きで運営するのはちょっと厳しいかなと思ったんだにゃ。だから嫁がこっちに来てもらうことにしたんだにゃ」
「たった一人で……ですか?」
「嫁は明るい奴で、自分が猫になってもくじけることはなかったにゃ。一人……いや、一匹で飛行機に乗ったにゃ。しかもファーストクラスで。……無事、日本に着いたことは確かなんだにゃ。でも駿河屋に来る前に、行方不明になったんだにゃ」
 それって誘拐? しゃべる猫だ。金目当てに誘拐しようと考える人間がいるかもしれない。
「おいらはその日仕事を終えて、東京国際空港に向かったにゃ。もしかしたらおいらのことを待っているのかもしれにゃいって……でも、嫁はいなかったにゃ」
「ケータイとか……持っていなかったんですか?」
 スルガニャンは首をふりふりと横に振った。
「持っていたにゃ。でも繋がらないんだにゃ。……おいらは仕方なく、その場を離れ、静岡に戻ったんだにゃ。それからも何度も東京に足を運び、わずかな情報でも得ようとしたにゃ。でも、なんの手がかりもないまま」
「警察には連絡入れたんですか? アメリカの病院は?」
「警察がこんな猫の話なんてまともに聞いてくれるはずないにゃ。一回、一か八かで頼んだけど、保健所に連れて行かれそうになったにゃ。アメリカの病院にも連絡したけど、それらしい猫は誰も見てないって言ってるにゃ」
「じゃあ、打つ手なしってことですか? そんなことない! 奥方は絶対に見つかりますよ!」
「おいらも希望は捨ててないにゃ。日本にいない可能性だってある。だから駿河屋では多くの国から人材を集めているんだにゃ」
 あ……それで外人ハンコってわけか。
「アメリカの国の人間が駿河屋で働けばアメリカの動向がわかる。ドイツ、オランダ、中国……すべては情報を広く集め、国際規模で人脈を作るためなんだにゃ」
 さ、さすがスルガニャン。そんなことまで考えていたのか。
 俺はてっきり人件費の問題とか、日本人ならすぐに仕事を辞めるとか、そんな低次元なレベルで考えていた。
「ちなみにおいらたち夫婦は外から見て区別がつくように、お尻に傷をつけているにゃ。右のお尻に傷があるのはおいら。左に傷がついているのは嫁」
「あの、もしかしてもう一匹のスルガニャンのことですか? 英語で、『メディア駿河屋』とか書いてるの。あれ、奥方だったんですか?」
「そうだにゃ。もし嫁が駿河屋のダンボールに気づいたら来て欲しいと……」
「っていうか、奥方はスルガニャンが駿河屋で働いているってこと知ってます?」
「言ったけど、もしかしたら忘れてるかもしれないにゃ。なんで連絡の一本も入れてくれないのかもう不思議で不思議で……」
 まだ生きている、そう信じたい。
「駿河屋を経営するのはお金を稼ぐ以外に大きな理由があるんだにゃ」
「それが、スルガニャンの奥方探しに繋がるってわけですね。つまり、どこかにいる奥方にアピールしているわけだ。店が大きくなればなるほど、スルガニャンも有名になる。そうなったらきっと奥方の耳に入りますよ!」
「うんうん、おいらもそう信じているにゃ。いつか嫁が駿河屋でお買い物してくれることを。そのとき、彼女は気づくんだにゃ。『スルガニャン? あぁ、あの人ね』って……」
「俺、感動したよ、スルガニャン。お金を稼ぐだけでなく、自分の嫁を探していたのか……知らなかった」
「まあ、塔子と由宇以外には言ってないから知らないのも当たり前にゃ。で、次に聞きたい質問とかあるかにゃ?」
 外人のハンコでこれだけしゃべってしまった。何気なく聞いたことでこんなに話が広がってしまうとは。

「商品の状態についてお聞きしたいんですけど……」
「いいにゃ。言ってみるにゃ」
「前に中古で買ったPS2の本体。ディスクを読み込まなかったんですけど……?」
「ん、次にゃ」
「あ、すみません。え……?」
 まあいいか。たまにははずれもあるってことだな。でも状態に関してもうちょっと聞きたいことがあったな。
「たまにゲームなんかだったら、『ケース割れで百円値引きするけど、どう?』みたいなメールが送られてくることがありますよね。あれいい感じですよね。いきなり状態の悪いものが送られたら誰だって嫌ですもん」
「でも、いきなり送ることだってあるんだにゃ。すべては運次第。検品するスタッフ次第だということにゃ」
 厳しい。さすがスルガニャンだ。
 最近では中古商品だといっても、新品同様の状態を求める客がいる。でもそれっておかしいだろ?
 中古商品なんだぜ? 中古商品だから安く買うことができるんだ。また中古商品が売れるから、俺たちは自分の手元にあるものを買取に出すことができる。お金を得ることができるんだ。
 つまり、中古商品は買い手側も売り手側も両方が得をする。ウインウインの関係だ。それを最近の若者は……いや、若者だけじゃないかもしれないけど。
「俺はスルガニャンの考えに賛成です。きれいだったらラッキー、ボロかったら残念。その程度ですよね?」
「そうにゃ。例えボロくてもゲームは起動するし、本だって読めるんだにゃ。甘えるなにゃ」
「じゃあ次に……値引きのタイミングですが、そういうのってあるんですか? 俺、狙っていた同人誌があったんですけど、新入荷したときは二千六百円。約一週間ごとに二百円ずつ値引きされていったんですよ。――で、二千円まで下がったら、タイムセールにも引っかかって、結局まとめうりも併用して千四百円ぐらいでその同人誌を購入したんですが」
「よくしゃべる男だにゃー。どれだけ駿河屋のことが好きなんだにゃ、もう」
「そりゃあもう、好きとかってレベルじゃないです。駿河屋は俺の一部なんですよ」
「まったく意味がわからないにゃ。……質問の答えとしては、まあそのときの気分によるにゃ。新入荷して一か月たっても十円すら値下げしない商品もあるにゃ。でも、いきなりドーンと安くしたりすることもあるけどにゃ」
「だから面白いんですよね。駿河屋は」
「ふふっ、そう言ってもらえると嬉しいにゃ。さ、他に聞きたいことはないかにゃ?」
「駿河屋の話だったら永遠にできますよ、俺は。在庫一商法ってのはホントなんですか? なんか在庫が一しかないのに、誰かが買ったあとでも一のままってやつなんですが……」
「いや、別にそんなことはしてないにゃ。反映するまでには時間がかかるにゃ。だからたぶんお客さんの早とちりだと思うんだにゃ」
「……ですよね。俺もそんな経験はないかなー。在庫切れになって一日、二日で復活するなんてことはよくあるんですけどね。じゃあ次。……そうそう、昔二円でマンガが買えたことがあったじゃないですか。俺、デスノートを一桁で買った記憶まだありますもん。あれはインパクト大だった。トレカなんて一円で売ってたりしてましたからね。この店、なんだよ? って思いましたよ。あのとき、俺はまだ駿河屋初心者だったからなー。あのときもっとお買い物を楽しんでおけばよかった。もう二円コミックとかしないですよね?」
「あれはお前が言ったようにインパクトを出したかった。もちろん赤字にゃ。でも、口コミで広がっていくだろうにゃ? だったら広告を出したり、テレビコマーシャルに出る必要もない。最終的には安く宣伝ができるってワケなんだにゃ」
「じゃあ2ちゃんに書いてたのも事実なんですか? ……一円のトレカを三百枚ぐらいまとめて買ったとかいう人がいたとか」
「うん。あれは正直クソたまらん。大体一枚のカードを探す手間ってけっこうあるもんだにゃ。遊戯王なんて全シリーズで何枚あると思ってるにゃ? 数十万枚というトレカの中からたった一枚探すのはかなり膨大な手間にゃ。管理にも手間がかかってるにゃ。それを三百枚? しかも一枚一円で? 一枚探すのに一分かかったとしても、三百枚で三百分。五時間にゃ。五時間かかって売上は三百円。明らかに人件費のほうが高くつくにゃ」
「そういうことは想定外だったんですね……」
「当たり前にゃ。最近の若者は遠慮ということを知らん。ま、そういうのもあって最低価格の引き上げはしなければならなかった。消費税増税がちょうどいいタイミングにあったにゃ。あれでどさぐさに紛れることができたにゃ」
「でもスルガニャン。送料無料の引き下げはいいサービスだよね。俺、ビックリしたもん。千八百円以上が千五百円以上になってるなんて。普通、あのタイミングだったら二千円か二千五百円以上だよ」
「またお前、タメ口になってるにゃ。……まー、でも商品の最低単価を引き上げたから、送料ぐらいはサービスせんと。しまいには誰も買ってくれなくなるにゃ。その代わり千円以上のお買い上げで送料無料のキャンペーンを千二百円にしたりするなど、うまいこと採算は取れてるにゃ」
 いい経営センスしてるよな、スルガニャン。
「さて、そろそろ地下を出るにゃ。お前とこうやって話している間にも一時間もたってしまったにゃ。喉も渇いてきたし」
「わかった。いろいろ教えてくれてありがとう、スルガニャン」
「……社長と呼べにゃん」

2014年07月26日

俺とスルガニャンとクロガネの翼(2) *この物語はフィクションです

 ――さて、ワンルームのマンションに帰った俺はさっそく駿河屋のサイトをチェックする。
 スルガニャンは翌日になにかセールをやると言っていたが、今のところ告知のようなものはない。ゲリラ的なセールか。明日は平日だ。これも駿河屋らしいな。
 駿河屋はいきなりセールをすることがある。たぶんこれは事前に告知すると、アクセスが集中してサーバーがダウンしてしまうからだ。
 そう、まさか明日のセールでこのサーバーダウンに悩まされることになってしまうとは……。
 翌日。俺は起きてすぐに駿河屋のサイトを確認する。
 まだ動きはない。だったら2ちゃんでも観て、情報収集でもしておくか。
 駿河屋の2ちゃんは実に楽しい。情報も新鮮だ。ここではタイムセールマンといって、毎日駿河屋のタイムセールの情報を流してくれる人がいる。
 駿河屋のメルマガより早いからな。一体どうやってこんなに早く知ってんだよって、疑問にすら思う。
 でもタイムセールの早い告知はとてもありがたい情報なので、フルに活用している。
 そのタイムセールマンから書き込みがあった。
 ……なになに? 今夜六時にシークレットセールがある……だって?
 マジかよ! シークレットセールか!!
 これは超お買い得なセールじゃねぇか。二か月に一回ぐらいは行う、大盤振る舞いの特大規模のセール! サーバーダウンは必至! 買うことすら難しいっていう、本当に幻のまま終わりかねないってセールだ。
 わぁ、楽しみ……!
 ん? 待てよ。いつもなら楽しみにしているだけでよかったんだ。でも、今回の買い物で俺の入社の合否が関わってしまう。
 絶対に買い逃がすことはできねぇ。だが、シークレットセールか。アクセスが集中するのは目に見えている。サーバーダウン、それが俺の一番の敵だ。
 夜六時。会社員だったらまだ帰宅してないことが多い。七時、八時になるとさらにアクセス数が増える。だったら狙う時間は六時だな。六時からスルガイヤーたちの争奪戦が始める。
 ……ふぅ、緊張するぜ。サーバーダウンも強敵だが、客の中にはプロスルガイヤーたちがいる。
 彼らは生活がかかっているからな。シークレットセールを見逃すはずがない。六時十分前には机の前でスタンバイしているはずだ。

 そして六時十分前になった。
 当然、俺は机の前に待機している。狙うのはあれか。CD箱と雑貨箱。たぶんセールの対象になっているはずだ。普段の販売価格でも十分お買い得なのだが、タイムセールでさらにお得になる。
 2ちゃんでタイムセールってなに? って聞いている新参者がいるな。福袋のタイムセールだよ。古参のスルガイヤーなら誰でも知っている。
 今日はブログの更新はなしだ。個人的に言えば、今日だけはスムーズに買わせて欲しい。ライバルはできるだけいないほうがいい。
 五分、四分、三分……俺は更新ボタンを押し続ける。うまいことスタートダッシュを切りたい。五分も出遅れたら、たちまちお買い得商品がなくなってしまう。シークレットセールとはそれほど厳しいものだ。
 そして一分を切った。もう更新ボタンを連打している。買わせろ、買わせてくれぇ〜。
 時間の六時を過ぎたがまだページは更新されていない。……まあ、駿河屋ではよくあること。
 ――などと思うのは素人! 実はもう闘いは始まっていたのだ。
 長年の経験からして、サイトページの更新は時間が来ても数十分遅れることはよくある。
 すでに価格が下げられている可能性が高い。俺はお気に入りに入れているCD箱のページを開いた。すると……。
 七百八十円が五百八十円になっている。やった! 二百円引きかよ!
 このCD箱というのは中古CDが八十二枚も入った福袋だ。ジャンク品という表示があるにもかかわらず、状態がきれいだったり、新品のものが入っていることもよくある。
 一割ほどレンタル落ちや、ケース割れなど含まれているが、七十枚は並以上の場合が多い。
 Tサイトを経由してネットオフでこれを売れば、ほぼ利益が出せるという優れものである。当然、人気は高い。それが二百円引きになっているんだ。
 俺からすれば現金のつかみ取りのようなもの。買わない理由はなかった。
「買いだ! 買い!!」
 クリックする。だが、反応が遅い。
 俺以外にももう気づいた奴がいるのか? 実はもうセールが始まっているって。
 プロスルガイヤーなら当然だな。くそっ! 買わせろ、買わせてくれ!
 買いたいのに買えない。それが駿河屋だ。
 数十秒がたつと、『このページは表示されません』という画面になってしまう。これではカートに入っているのかもあやしい。
 俺はそれからもう一度、CD箱をカートの中に入れた。でも結果は同じ。
 買わせてくれない?
 プロスルガイヤーは買えているのか? もしかしたら俺のパソコンの性能が悪いため?
 そういうときは2ちゃんを参考にすればいい。俺と同じ状態の奴がきっといるはずだ。
『買えねー!』
『サーバー強化しろよー!』
『カートまで行けない(涙)』
 なるほど。皆、俺と同じような状況か。だとするとまだ誰一人買えていない状態か。
 スタートダッシュで全員がこける。しかも誰もが起き上がれない。駿河屋ならではの出来事だった。
「買わせてくれ、買わせてくれよ……駿河屋はこんなことをしてなんのメリットがある? 客は買いたいんだよ。買わせてくれよっ!!」
 ――ハッ!
 ……俺はとんだ勘違いをしていた。金を払えば物が買える。それが当たり前だと思っていた。でも、それってすごい素敵なことなんだよな。
 もし、お金で物を売買できなくなったら物々交換しかない。そんな基本的なことを思い出させてくれるか、駿河屋は。
 俺たちは恵まれているんだ。だってそうだろ? クリックするだけで物が買える時代。商品はドライバーの人が届けてくれる。家から一歩も出る必要はない。
 しかし! 駿河屋は言っている。甘ったれるなよ、と。お金で物が買えるのを当たり前だと思うな。……確かにそうだ。もし、大きな震災があって全国的に食料不足になったらどうする? お金で食料は買えない。そんなとき、俺たちはずっと嘆いているのか? 違うだろ。力強く生きるんだ。
 ありがとう、駿河屋。そんな基本的なことさえ俺たちは忘れていたよ。物を買う喜び、買える喜び。俺たちはなんて平和な時代を生きているんだ。そしてこの平和が永遠に続く保証はない。だから一日一日を大切に生きろってことか。
 単なるサーバーダウンではない。駿河屋はサーバーダウンと見せかけて俺たちにこんなメッセージを送っているんだ。
 これはもう、俺たちの親だ。父や母だと言ってもいい。ありがとう、駿河屋……。
 だが俺は今日、どうしても買わなければならない。くじけることはない。例え一時間や二時間でも繋がらなくても、俺はアクセスを続ける。……っていうか、もうトップページすら表示されない。厳しすぎるだろ、駿河屋。
 同時に2ちゃんの様子も見てみる。すると、彼らに動きが現れたのだ。
『買えねーよ。諦めた』
『トップページも見れないw』
『駿河屋、売る気あるのかよ?』
 ……皆、甘いな。しかしこれはいい傾向だ。徐々に駿河屋のアクセス数が減っていっている。このまま減り続ければ時期にアクセス可能になる。……よし、皆、早く駿河屋から離れてくれ。

 六時半になったときだ。
 急に画面が軽くなったような気がした。
 アクセス数が急減? いや、駿河屋がこの三十分の間になんらかしらのサーバー強化をしたのかもしれない。どっちでもいい! 快適だ! 快適に動くぞ!
 すぐにCD箱を買う。……よし、カートに入った。
 一箱だけじゃあ少なすぎるだろ。ここは貪欲にもっと買うべし。だが、またいつサーバーダウンが起こるかもしれな。
 たくさん買いたい気持ちを抑え、とりあえず三箱で精算する。五百八十円が三箱。送料が無料の条件は余裕でクリアだ。
 個人情報を登録しているからあとは数回のクリックだ。到着日時の設定だな。俺はいつも午前にしてるぜ。平日でも祝日でもどっちでもいい。最短だ。
 さて、最後の決定ボタン。これを押せば注文が通る。ここで怖いのは途中で接続が切れることだ。普通のネットショップなら考えられないことだが、駿河屋ではよくあること。
 買わせてくれ、お願いだ。買わせてくれ……!
 ――注文が通った。フェイスブックのいいねボタンを押せば千円の商品券がくれるという画面になる。……もうこのキャンペーンには参加したぜ。抽選で七名だろ。宝くじを当てるより難しい確率じゃねぇのか?
 至るところに駿河屋の厳しさがある。さてさて、第二回目の買い物だ。
 福袋にまとめうりは適用されないので、小分けに買ってもなんの問題もない。これはシークレットセールに限ったことではない。タイムセールで買うコツだ。
 CDの次の狙い目は雑貨箱だな。以前、この中に入っていたらんま1/2のカードや、乙女ゲーの購入特典カードが五千円以上で売れたことがある。ヤフオクで。
 当時は四百八十円だった。明らかに安すぎる。大きなダンボールで届くんだ。商品の点数だけで言っても百は超える。
 初めて雑貨箱を買ったときは、駿河屋っておかしいんじゃねぇか? って本気で思ったほどだ。それ以降毎週四箱×二回のペースで買った。……だが、二十個ぐらい買った辺りで雑貨箱は値上げ。七百八十円になる。
 さらには千円を超すこともあった。千二百八十円だっけ。
 高く設定しすぎたのか雑貨箱は途端に売れなくなった。と思う。
 それからある程度たって、雑貨箱は千百八十円になり、千八十円、八百八十円にまでなったのだ。そして、シークレットセールでは六百八十円!
 初めの頃と比べるとまだ高いが十分だ。四箱ほど買うか。
 四箱をカートに入れる。まだ接続が切れる様子はない。順調だ。
 しかし、そろそろ快適になったと、戻ってくるサイトに戻ってくるスルガイヤーもいるだろう。快適な時間はあと十分とみておいたほうがいい。会社員の帰りも重なる時間帯だ。
 CD箱、雑貨箱ときたら次はぬいぐるみ箱だ。
 狙いはファンシーぬいぐるみ箱。昔は二百八十円だった。今は四百円になっている。その福袋がセールで百円だ。百円? ……おいおい、駿河屋よ。なぜこれが百円で買える? 儲けなんてないだろ。送料だけで赤字じゃないか! ……なんでこんなに駿河屋は客に優しいんだよ。
 思わず泣けてくる。そう、駿河屋は客に優しすぎる。箱いっぱいに入ったぬいぐるみだ。これが百円で買えるところがどこにある? 駿河屋以外にないだろ?
 状態もかなりいいものが揃っている。ファンシーぬいぐるみはジャンルごちゃ混ぜだ。動物もいるし、アニメキャラクターもいる。猫もいるし、犬もいる。つまり、本当の意味での福袋。
 個人的にはクマが好きなんだが、クマだらけ箱は二百円する。たった百円の違いだが、駿河屋で百円の差は大きい。二百円あれば、ファンシー箱が二つも買える計算だ。
 そこまで考えるとファンシー箱のオトクさがどうしても目に留まってしまう。
 買い物を楽しむな。俺にはなにを買うかで入社試験の合否がかかっているんだ。スルガニャンはこれぞと思うものを買えと言った。あのかわいいにゃん声で。
 だったら、その言葉通りに俺は動くべきだ!
 ファンシー箱は二箱買う。百円だから十個買っても千円。予算的にはなんの問題もない。だが、送られてくるダンボールが大きい上に、ぬいぐるみは転売がしにくいのだ。
 捨てるわけにもいかない。動物には心がこもっている。俺はそう信じているんだ。
 一方、CDや雑貨にはなんの未練もない。右から左へ転売する。
 雑貨箱は当たり外れが多いからな。ならCD箱だ。買えるだけ買う!
 俺は過去に十箱のCD箱をブックオフとネットオフに売ったことがある。ブックオフで四千円ほどの利益を出した。
 届いたCDの中で売れないものを弾いただけだぜ。たったそれだけの労力! ちなみにレンタル落ちなんかは駿河屋に売ったらいい。
 レンタル落ちを堂々と、しかも気軽に売れるのは駿河屋だけだぜ。
 俺はCD箱をカートに入れまくった。――そして、二十数箱買ったところで気づく。
 俺の部屋にこの大量のダンボールが入るのか?
 二十数箱が限界だ。いくら儲かるといっても、部屋に入らなければ、なんというか終わってしまう。

 ちなみにこれが俺のブックオフオンラインに売った商品の数々。このデータは今でも多くの人から重宝されている。その商品数、ざっと七百二十九枚だ!

 〜恋のマイアヒ〜 DiscO−Zone CD 一点五円
[si:] CD 一点一円
『リサ・マリー・プレスリー』 CD 一点五円
【初回仕様】勝訴ストリップピンク外箱付 CD一点 五円
【通常十四曲】LILY OF DA VALLEY CD 一点一円
−Ballad Best Singles−WHITE ROAD− CD 一点三十円
11 CD一点一円
 2002 FIFA ワールドカップ [コリア・ジャパン] 公式アルバム CD 一点五円
 24サーチライト CD一点一円
 4 FORCE CD一点一円
 4REAL CD 二点二円
 5、6、7、8−e.p. CD 一点五円
 51/2 CD 一点一円

 …………。

 ……(長すぎるので中略)。

 瞳をとじて CD一点 一円
 熱き鼓動の果て CD一点 一円
 背景ロマン CD一点 一円
 白い恋人達 CD一点 一円
 百景 CD 一点五円
 風吹けば恋 CD 一点一円
 粉雪 CD 一点一円
 抱きしめたい CD 一点五円
 北青山的十三曲千円 CD 一点一円
 僕らの街で CD 一点一円
 魔法のリングにKiSSをして CD 一点一円
 無限大 CD 二点二円
 明日の記憶/Crazy Moon〜キミ・ハ・ムテキ〜 CD 一点一円
 明日を目指して!通常盤(初回プレス) CD 一点一円
 明日晴れるかな(初回限定盤) CD 一点一円
 野性のENERGY CD 一点五円
 友達の唄 CD 一点一円
 揺れる想い CD 二点十円
 陽は、また昇る(DVD付) CD 一点一円
 理由なきnewdays(初回限定盤) CD 一点一円
 涙 そうそう CD 一点一円
 涙のふるさと CD 一点一円
 恋バス CD 一点五円
 恋愛事情 reasons of love CD 一点五円
 浪漫 〜MY DEAR BOY〜 CD 一点一円
 遙か CD 一点一円

 そして、最後に……。
 その他CD(バーコード無し・商品データ無し等) CD四十三点三百八十円
 ブックオフオンラインの買取のメリットとして、なにがいくらで売れたかというのがわかる。ゲオもそれに近いことをしているが、あそこは破棄率が高いからまずはなにを破棄したのか教えてくれって感じだ。
 そうそう、破棄率に関してだが、ブックオフオンラインはわずか七パーセント。
 CD箱を大量に売るなら迷うことなしにブックオフオンライン! それは間違いない。
 ネットオフの三十パーセント上乗せキャンペーンなんて、大したことない。
 ネットオフの破棄率についてだが、ブックオフオンラインと比べるとかなり高い。四十一パーセントだ。
 このCD箱を十箱ずつ売る勝負ではブックオフオンラインの圧勝。簡単に買取金額を比較すると、ブックオフオンラインが一万千円。ちょっとおまけしてネットオフが八千円だった。
 ……だが、これはまとめて売った場合だ。小分けして売るならこの結果は逆転する。
 そういうところが転売でおもしろいところだ。

 そろそろ混む時間でもあった。これぐらいにしておくか。
 精算。……はぁ、疲れたぜ。だが気分はいい。CD箱は完全転売目的だが、雑貨箱とぬいぐるみ箱は中身がよければそのまま持っておく。
 気に入らなければ駿河屋に売ればいい。俺は福袋の残骸でも高く買い取ってくれることを知っている。買取でも俺はヘビーユーザーだった。
 買い物を終え、俺はサイトの様子を見てみた。すると……。
「あれ? ページ、繋がらないじゃん。……やべぇ、ギリギリだったな」
 もうちょっと遅かったら精算できなかった。カートの中身が全部吹っ飛んでいかもしれない。今まで駿河屋で培った経験が役に立った。
 それから駿河屋のサイトが正常に動くことはなかった。
 夜六時から十二時までの六時間のタイムセール。だが、実際に物を買えたのは六時半から六時四十五分までのわずか十五分間。
 買えなかった客が何人いたことか。だが、駿河屋は十二時ちょうどにセールを終わらす。なんて厳しい世界なんだ。
 購入できたのは俺のような買い物に慣れているヘビーユーザーか、プロスルガイヤーぐらいか。
 へへ、これで合格だろう。さて、今日はもう寝るかな。
 駿河屋から自動メールが来た。駿河屋は一日一回しかメールチェックをしないからな。毎朝八時だ。それ以外のメールは基本、翌日の朝八時まで読まれることはない。
 この厳しさこそ、駿河屋。世間はそれほど甘くない。そう俺たちに教えてくれているのだ。むしろ感謝するべきである。

 ――翌朝。目を覚ますと駿河屋からメールが来ていた。内容を確認する……。

『合格だにゃ。近くに引っ越してくるにゃ。部屋はもう用意しているにゃ。引っ越しにかかる費用はこっちで出すにゃ。今回購入したものも引越し先に送るにゃ。三日以内に本社に来るにゃ』

 スルガニャン……ラブリー。
 合格だった。部屋もすでに用意してくれている。俺、これでスルガニャンと一緒に仕事ができるよ! こんなに嬉しいことはない。
 この日、さっそくマンションの管理会社に連絡を入れた。すぐに退居すると。
 俺は駿河屋の正社員。いろんな企画を考えて、もっともっと駿河屋を大きくする。そして、全国のスルガイヤーにもっと愛される駿河屋にするんだ!

俺とスルガニャンとクロガネの翼(1) *この物語はフィクションです

第一章 脱フリーター

  1 入社試験

 俺の周りでフリーターをやっていた奴も次々と就職していった。気づけば俺一人だ。まだフリーターなんて……。
 バイト先のスーパーも俺以外のスタッフは全員学生だ。三十二歳のおっさんが高校生の中で仕事するのは正直辛い。上司(もちろん正社員)は俺より年齢が下。……なんだかなぁ。
 今さら就職するって気持ちにはなれない。小説家を目指して何度も文学賞に投稿してはいるが、未だ一度もかすったことすらない。俺って文才ないのかな。
 もうどうでもいいっていうか、生きていくことが辛い。楽しみと言えば駿河屋ぐらいだ。駿河屋のタイムセールで商品を漁っているときが、唯一俺が輝いているとき!
 駿河屋は静岡県にあるのか。せめて関西ならなー。大好きな駿河屋だったら俺も就職したいって気持ちになるんだけど。
 …………。
 ……駿河屋で就職か。それ、いいかもしれないな。
 というわけで、さっそくリクナビにエントリーした。総合職はしんどそうだな。採用の基準も厳しいだろう。俺みたいな三流大学卒じゃたぶん無理だ。
 プログラマーになれるスキルなんて持ってないっつーの。だったら消去法で一般職しかないじゃん。……ま、別にいいけどね。初任給は十五時間の残業を合わせて十七万五千円か。ちょっと少ないな。でも趣味の内容で仕事ができるんだ。贅沢言っている場合じゃない。
 七時から二十四時までのシフト制か。けっこう時間帯の幅があるんだな。夜勤がないだけまだマシか。
 なになに? 選考プロセスとして、まずは筆記試験。次に面接があるのか。……よぉし、俺の駿河屋知識を存分に発揮できるな。そんなの筆記試験に出ない? ……いや、出るかもしれねぇぞ。
 俺は趣味で『駿河屋が最高!』というブログを運営している。ハンドルネームは『サイコー君』。ブログを始めてもう一年近くになる。

 一か月がたった。今日は駿河屋の筆記試験だ。関西から静岡までちょっとした旅行気分だな。もし採用してもらったら向こうで住むことになる。
 俺は何年かぶりにスーツに腕を通した。そして朝一番で電車に乗った。
 ――さて、『駿河屋』に着いたわけだけど、建物がなんか倉庫みたいだな。敷地面積は広いのだが、ざっと見たところ二階までしかなさそうだ。
 なのに、あれほど膨大な商品を扱っているんだよな。……ワケわからん。辺りには車が十台ぐらい止まっている。そこから発進したり、さらに別の車が到着するなど、せわしなく動いていた。
 筆記試験を受けるのが本社だから、ここが地図の通りなんだけど……ええいっ! 行っちゃえ! ここまで来たんだ。絶対に受かってやる。
 エントランスに入ると、受付には誰も人がいない。立て看板だけがあった。そこにはこう書かれていた。

『筆記試験を受けられる方は二階の会議室まで』

 ……うん。二階へ上がれってわけね。
 左には階段とエレベーターがある。――正面を見るとすごい。ずっと奥まで道が続いている。外で建物を見るのとはまた別の感じがするな。こんなに広かったら空調のメンテナンスにもお金がかかっているだろうな。じゃあ二階二階っと……。
 ――二階は事務所と作業場を兼ねているのか、部屋を細かく区切ってあった。道に迷わないようにあちこちに張り紙があった。矢印に辿っていけばいいんだな。
 何度か角を曲がるうちに大きな部屋の前に着いた。三人用の長いテーブルが一定の間隔で置かれている。テーブルだけで五十卓はあるな。
 ふと、あることに気づく。……え、まだこれだけしか来ていないの?
 俺が早く会社に来すぎてしまったのだろうか。そう思って腕時計で確認するが、そうでもなかった。十分前。受験者は俺を含めて三人。……どういうこと?
 パッと見では二人とも新卒。三十過ぎてる男なんて俺だけかぁ……。こりゃ新卒じゃないってだけで落とされそうだ。
 とりあえず前のほうに行き、適当に腰をかけた。正面のホワイトボードには『座ってお待ち下さい』の文字があった。丁寧な字で書かれている。
 十分。俺は手を膝に置いて試験官が来るのをひたすら待っていた。少し離れた席にいる二人の受験者も同様だ。でもなんだ、こういう雰囲気なの? 就職の筆記試験って。俺、今までに一回しかそういうの受けたことないからよくわかんないんだけど。
 女の人が部屋に入ってきた。長い金髪で美人だ。背も高い。それになにより若い。まだ二十代に入って間もない感じだな。……ほぇー、駿河屋にこんな人もいるんだ。
 ビシッとスーツで決めていて、デキる女の雰囲気を醸し出している。
 その後ろに彼女よりやや背の低い男が部屋に入ってきた。女性と同様、金髪だった。まるで姉弟のように見える。
「――諸君、よく集まってくれた。わたしの名前は梨本塔子。アメリカ名ではサンドラ・リンクスだ。傍にいるのは梨本由宇、わたしの弟だ。もう一つの名はレオーネ・リンクス。それぞれ呼びやすい名前で呼んでくれ。……さて、我が駿河屋の就職試験を受けるのはあなた方三名だ。遠いところからよく来てくれたな」
 女性の声はよく通り、その美声に心と耳が癒されるようだ。
「……あの、たった三人だけなんですか?」
 一番手前の真ん中の席に座っている男が言った。
「そうだ。涼野守さん、佐久間修也さん、緑川有人さん……以上の三名で間違いないな?」
「「はい……」」
 美人なのに厳しそうな口調だな。でも声がきれいだからいいか。
「ではさっそく筆記試験を行う。制限時間は六十分だ。今から由宇が問題用紙を配る。もちろん手元に資料を並べるのはなしだ。用紙を受け取った者から始めてくれ」
 うへぇ、いきなりかよ。なんの説明もなかったな。こちとら勉強なんかろくにしていない。英語も数学も対策に一週間ぐらいしかかけていないが……まあ、無理なら無理だ。ベストを尽くそう。
 用紙を配るのは由宇さんだが、この人もきれいな顔立ちをしているな。肌がきれいっていうか、女装したらたぶん女と変わんねぇぞ、たぶん。
 配られた問題用紙を見て、俺は自分の目を疑った。……なんだ、こりゃ?
 英語とか数学なんかじゃねー。これって全部駿河屋に関する問題じゃねーか。……ま、やってみるか。こういう問題だったらどんと来いだ。駿河屋のことなら身をもって経験している。駿河屋のファンブログまで運営しているぐらいだ。問題は全部で十問あった。

『問1、 駿河屋で販売価格より安く買う方法とは?』
 簡単じゃねーか。何度か駿河屋で買い物しているとわかってくるぜ。駿河屋独特の販売方法、それはタイムセールだ。それにまとめうり! 「売り」じゃなくて「うり」っていうのがミソな。
 これだけだと俺の駿河屋知識が全部活かされねぇな。解答欄にはまだ余裕がある。ついで書籍の割引率も書いておこう。ヘビーユーザーだから暗記してるぞ。
 十冊で五パーセント引き。二十冊で十パーセント引き。三十冊で二十パーセント引きだ。
 二十冊買ったらあと十冊買うほうがいいよな。比率は一定ではない。つまり、十冊で五パーセントずつ割引になるわけじゃない。五パーセント、十パーセント……次に二十パーセントだ。
 これはいわゆるひっかけ問題。十五パーセント引きって書いてる奴とかいるだろうな。……いや、熟練したスルガイヤー(駿河屋でお買い物を楽しむ人のこと)ならそんな初歩的なミスはしないか。なにせ受験生は駿河屋で働きたいと思ってる人たちだ。確認しなくても彼らが駿河屋のヘビーユーザーだと言える。
 中でも駿河屋の商品を転売して生活をする、プロスルガイヤーもいるらしいからな。世の中は広いぜ。
 まだ他に書ける空白があるな。そうだ、同人誌が対象になるときとならないときがあることも書いておこう。書籍のまとめうり以外では同人誌の最大の割引率は十パーセント。もし同人誌が対象に含まれたらかなりお買い得だ。多少無理してでも三十冊まとめて買ったほうがいい。いや、買うべきだ!
 ……チッ、もう書くスペースもないか。駿河屋のことだったら俺は答案用紙に何枚だって書けるぞ。しかし、問1でこんなに時間を使ってはダメだ。時間には限りがあるからな。次の問題に進もう。

『問2、 駿河屋の扱う目玉商品とは?』
 これも基本だろ? 同人誌や雑貨って書きたくもなる。だがな、違う。
 駿河屋と言えば福袋。福袋と言えば駿河屋だ。日本で初めて福袋を売った店は? って聞かれても俺は駿河屋って書くぜ。例え、間違っていたとしてもな。それぐらい駿河屋と福袋の関係は深く繋がっている。あのワクワク感とガッカリ感。人生にいい刺激を与えてくれることこの上なしだ。
 スルガイヤーの楽しみの半分はタイムセール。もう半分が福袋だ。
 稀にある福袋のタイムセールは鼻血が出るほど興奮するぜ。バイトだって休むさ。そんなの当たり前だろ? ……っといけねぇ、また妄想の時間に入っちまった。問題は十問。制限時間は一時間だ。だとすると一問にかけられる時間はたったの六分しかねぇじゃねぇか。
 ……くーっ、もっと駿河屋について語りてぇ! 次にいくか。

『問3、 遅延についてどう思うか?』
 おほっ! キタッッ!! 駿河屋と言えば遅延だよ。しかし、問題は「どう思うか?」だろ。普通に「発送が送れること」……なんて書くのはナンセンスすぎる。どう思うかだから個人的な感想でいい。
 ……ははーん、わかってきたぞ。この問題で駿河屋の新参か古参かを見分けるってことだな。甘いな、俺はそんな手には引っかからない。
 素人は遅延を非常に恐れる。いや、遅延を憎んでさえいる! アマゾンの発送に慣れすぎてんだ。あれと同じように考えちゃいけねぇ。
 駿河屋の遅延には理由があるんだ。もし、注文した翌日に頼んだ商品が届くとよう。それが例え二十四時間後に到着したらワクワクできる期間ってのがたった一日しかねぇ。
 俺たちがガキだった頃、クリスマスプレゼントを楽しみに待っていたよな?
 十二月に入る前からだ。普段、親からプレゼントなんて誕生日ぐらいしかねぇ。でも、もう一つあるとすればクリスマスだ。この日は親に高いものをねだっても許される日。
 二万や三万するゲーム本体もこの日なら買ってくれる。……そう、俺たちはそうして生きてきたはずだ。あのワクワク感は一週間や二週間どころではなかった。月単位だった。
 それを今は注文した翌日に届かないと、遅いだの、詐欺だの、客がクレームを入れる。
 駿河屋はな、ワクワクする期間を与えてくれてるんだ! お前らの純粋な心はどこに消えた? あ?
 ――おっと、やべぇ。また妄想時間に入ってた。次の問題に進まないと。えぇっと、答えはワクワク感の延長のため……これでいいか。

『問4、 ゆうメールをゆうパックにする方法は?』
 あっ、キタな。これ、俺の研究テーマ。卒業論文ってわけじゃないけど、もしノーベル駿河賞ってもんがあるんなら、俺はこの研究で賞をゲットしている。事細かく書く自信がある。だが何度も言うように時間が限られている。ここは簡潔に答えだけ書いておくか。
 ズバリ、一緒にうまい棒を五本買うことだ。これをすることによって例え、同人誌一冊だけでもゆうパックで発送してもらえる。かかるお金はたったの四十五円。ちなみに一番のオススメを書いておこう。牛タン塩味だ。

『問5、 うまい棒一本の価格は?』
 おっと、うまい棒のことを書いていたら今度はうまい棒自身が問題になったぞ。
 ……一本の価格? なるほど、ここで十円と答えるのは素人。駿河屋初心者、丸出しってことか。甘い甘い、駿河屋では一本九円で買うことができる。しかもだ! 税込み価格なんだよ。条件次第で送料が無料になるしな。もしかしたら日本で一番うまい棒をお得に買えるショップかもしれん。……よし、今度はそれを研究テーマにするか。駿河屋は奥が深いからな。どれだけ研究時間があっても足りやしない。次の問題に進む。

『問6、 うまい棒三十本セットで二百七十円。では、タイムセールの価格は?』
 基本すぎるだろ。そんなの二百四十円に決まってる。超安い!

『問7、 シークレットセールとはなんのことか?』
 あ、キタ。これキタわ。シークレットでもなんでもない。シークレットなのは初見だけだ。スルガイヤーならこれが福袋のタイムセールだと知っている。基本すぎるわ! ヌルいッ!!

『問8、 本店サイトと楽天の店舗ではどちらのほうが安いか?』
 簡単すぎる……。こんな簡単な問題が入社試験だと? こんな二択、ただのサービス問題じゃないか。ここで楽天と答える奴はスルガイヤーじゃねぇ。顔を洗って出直してきな。

『問9、 駿河屋でいうジャンクとは?』
 なかなか深い問題だな。簡単な問題が続いたからここで知識をちょっとアピールしておくか。一般的にジャンクというと、壊れていても文句言えませんよって状態のことを指す。 だが、駿河屋のジャンクは少し違う。
 ゲームの福袋のジャンクはケース割れや、ディスクのみ、なんてことがけっこうある。まあ、起動さえできないってのは本当に稀だ。ほとんどが傷や付属品の不足といっていいだろう。
 福袋はこのジャンク記載がけっこう大きい。しかし、CDの場合だとまったくの無傷……それどころかシュリンク付きの商品だって入っている。
 ま、確かにひどいのもあるさ。レンタル落ちとか、ディスクのみとかね。でもそんなの一割も含まれていない。
 DVDのジャンクには注意が必要だ。あれはやばい。バーコード部分が切られていたり、マジックペンで塗り潰されているのだってある。レンタル落ちじゃなくて、レンタル商品をそのものを送ってきたこともあったからな。さすがにこのときは俺も引いたぜ。近くのリサイクルショップ屋に持っていったが買取拒否されちまった。仕方なく捨てたけど、駿河屋に売るってのもありだったんだな。
 あのときは俺の駿河屋レベルが低かったがために、損なことをしちまったぜ……。
 答えは「ジャンクも含まれる、という意味である」が正解だ。さ、次の問題に行くか。

『問10、ズバリ、駿河屋とは?』
 最終問題。……そうきたか。つまりフリーエリア。なにを書いてもいいってことだな。
 書けるネタはたくさんある。だがしかし、ここはあえてシンプルにいこう。つらつらと文章を書き並べるだけでは説得力がない。状況によってはたった一言書くだけのほうがインパクトがある。今がまさにそんなときだ。
 そして俺は大きな文字で「神」と書いた。

 駿河屋は俺にとって神だ。どれだけこのショップに救われたかわからない。俺の忠誠心は相当なもんだぜ。
「――では、終了。問題用紙を集めます」
 できるだけのことはした。これで筆記試験は終わりだ。一時間の休憩が入って次は面接だな。
 俺はここに途中、コンビニで買ったおにぎりを頬張った。特にすることもないので、ケータイでメールを確認する。――すると、駿河屋から入荷通知が届いてるじゃねぇか! これ、前から欲しかった本だ。値段は八百円? 買う! 買うよ!
 今日は千二百円以上のお買い物で送料が無料だ。だったらここはうまい棒の三十本セットだな。これを二つ買おう。
 お菓子のタイムセールを待つのもいいが、新入荷された商品はすぐに売れる可能性があるからな。ちなみにアマゾンで千五百円もするやつ。ケチケチ言っていられない。
 本一冊とうまい棒六十本で千三百四十円になった。余裕で送料無料だ♪
 駿河屋の本社で、駿河屋サイトを開いて買い物するのもちょっとオツだな。
 ――一時間がたった。いよいよ面接だな。梨本塔子さんと由宇さんが部屋に入ってきた。

「では、今から面接を行う。場所はここだ。諸君はその席に座ったままでいい。形式ばった面接なんていらない。わたしたちは諸君の本心を知りたいのだ。リラックスして、ありのままの言葉で伝えて欲しい。それでは社長を呼ぶとしょう。……スルガニャン、出てきて」
 おい、ちょっと待て! ……待ってくれよ。今、塔子さんはなんて言った?
 俺の耳がイカれていないなら、彼女はスルガニャンと言ったはずだ。
「スルガニャンって言いました??」
 俺は思わず立ってしまった。……だって、スルガニャンって俺たちスルガイヤーの中では憧れの猫。超ラブリーなスルガニャンなんだもん。それをまるで今から出てくるかのようにあの人は言った。……ハ、ハ。あり得ない。スルガニャンが「お待たせにゃーん」とか言って出てくるはずない!!
「――お待たせにゃーん」
 部屋に入ってきたのは一匹の白い猫。黒いサングラスをかけて二足歩行だ。すげぇ堂々としてる。
 中に人間が入ってる? いや、普通の猫サイズだ。赤ん坊だって入れるサイズじゃない。っていうか、普通にしゃべったぞ。もしかして本当にスルガニャン? スルガニャンなの?
「スルガニャンっ??」
 ……白い猫は答えた。
「そうだにゃ。おいらがスルガニャンだにゃ」
 スルガ……あぁ、実在したんだ。スルガニャン。
 いや、待て! 冷静になって考えろ。確かにこの猫はしゃべる。二足歩行で歩いちゃったりなんかもする。でも、彼がスルガニャンだという証拠はどこにもないじゃないか。
 もしかしたらただのしゃべる猫かもしれない。そうだ、証拠がない!
「スルガニャン……いや、あなたは本当にスルガニャンなのですか?」
「そうだにゃ。さっきからそう言ってるにゃ」
「だったらスルガニャンだという証拠を見せて下さいよ。もし、あなたが俺たちの愛するスルガニャンのフリをしているだけなんてことがバレたら、俺は名誉毀損で訴えます」
「受験者に一人バカがいるにゃ。……まあ、いいにゃ。こいつを見るにゃ」
 スルガニャンは地べたに座り始めた。そして片脚を上げ、脚を組む。……あっ!
「その、みっ、みっ……右の尻にある傷は?」
「この傷を見て、まだおいらが本当のスルガニャンってわからないのかにゃ?」
 本物だ……彼はスルガニャンだ。俺はてっきり架空のキャラクターだと思い込んでいた。でも、スルガニャンは確かにいたんだ。しかも駿河屋の社長をしているなんて。
「スルガニャーンッ!!」
 俺はスルガニャンに思いきり抱きつこうとした。スルガニャンは慌ててその場を逃げ出そうとするが、取っていた姿勢が不安定だったため、素早い動きができない。このままだとあと〇・五秒後には俺の両手の中にスルガニャンが。あのラブリースルガニャンが!
 犯罪者と言われてもいい。猫にセクハラしたと世間から罵られてもいい。それだけスルガニャンには魅力があった。しかし……。
「――無礼者っ! なにをするッ!!」
 ドガッ!! ……塔子さんの手刀。俺はそれをもろに首にくらってしまう。スルガニャンまであと数センチというところで、俺は倒れてしまった。
「変態かっ!」
 う、変態です……でも、スルガニャンにはそれだけの魅力が……お願い、不採用にしないで。
「あなたが好きすぎて……スルガニャンぬいぐるみを、俺は作りました。猫のぬいぐるみにサングラスをつけて……それで満足していました。でも、本当にスルガニャンがいることを知って俺は自分の感情を抑えられなかった。ごめんなさい、スルガニャン……俺を嫌いにならないで」
 素直に謝った。するとスルガニャンからこんなお言葉をもらった。
「ま、まあいいにゃ。今回だけは見逃してやるにゃ。でも、またおいらに抱きつこうとしたら今度は警察に叩き出すにゃ。それでいいかにゃ?」
「はいっ!! ……あぁー、ホントにしゃべってる。ラブリー、スルガニャン……」
 もうなんか面接どころじゃない。スルガニャンの魅力にやられてもうすっかり骨抜き状態だ。こんな俺を部屋の中にいる者すべてが変な目で見ている。
 お前ら、スルガニャンだぞ? なぜ感動しない? 塔子さんたちは普段から知っているとしても、佐久間と緑川だっけ? お前らは初見のはずだ。スルガイヤーだったら感動するだろ?
「――ん、んんっ! ……では、気を取り直して今から面接を行う。まずは佐久間さんだ。スルガニャンの質問に答えるように」
「あっ、あぁ……」
 佐久間。俺の右隣りのテーブルに座っている男だ。まずはこいつからか……。どれだけの駿河屋愛を持っているか見ててやる。
「まずは……そうだにゃ、君はウチの扱う商品でなにを一番にオススメするかにゃ?」
 いろいろあるぜ。雑貨箱にCD箱だろ。それにぬいぐるみ箱もお買い得だ。あぁー、ありすぎて一つには決められねぇよ。スルガニャン直々の質問だ。俺が答えるときはかっこよく答えたい。
「そうですね……ゲームです。ゲームソフト。安いですよね」
 ……おい。待てよ。なに言ってんだこいつ? ゲームソフトだって?
 そんなのなんの答えにもなってねぇよ。せめてレトロゲーって言えよ。ゲームってくくりが広すぎて全然具体的じゃねぇ。
「――では、質問を変えようにゃ。君は入荷待ちリストを利用しているかにゃ?」
 普通するだろ? 俺なんてとりあえず欲しいもんは入荷待ちリストに入れるからもう六十ページ近くあって、なにがなんだかわかんなくなっちまってるぞ。スルガイヤーならまず間違いなく使っている機能。だが、佐久間はこう言った。
「え……? なんですか、それって?」
 ウソだろ? こいつ、まったくの初心者だ。もしかしたら駿河屋で一度も買い物をしていないかもしれない。
 そもそもスルガニャンが出てきた時点で驚かないことが不自然。スルガニャンさえも知らない?
 俺は苛立ってきた。なんでこんな素人が駿河屋の入社試験を受けようとしたんだ?
 同時に俺がこの中で勝ち抜く自信も出てきた。佐久間には確実に勝てるな。問題は緑川だ。どれだけ駿河屋のことを知っている……。
「もういいにゃ! 佐久間、お前は駿河屋で物を買ったことがあるかにゃ?」
 スルガニャンは怒り気味だった。……それもそうだろう。一度も自分のショップを利用したことがない奴に会社のなにがわかる? スルガニャンの怒りはもっともだ。
「な、ないです……」
「一度もないのに、よく入社しようと思ったにゃ。甘いにゃ! お前は不採用だにゃ!」
 その場で不採用? 厳しい。さすがスルガニャンだ。
 佐久間はそのまま荷物をまとめて帰ってしまった。
「……まったく、筆記試験の内容から見て、あいつはあやしかったにゃ。なんにゃ、この問4の答えは? 『ゆうメールをゆうパックにする方法は?』って質問してるのに、『過不足分の送料を払う』って。なめんにゃ! そんなサービス一度もしたことないにゃ!」
「そうですよ。駿河屋の愛が足りませんよね?」
 どさぐさに紛れてスルガニャンに言った。
「なんにゃ、お前……? あぁ、変態かにゃ」
 スルガニャンとお話ししている。しかも罵られている。さ、最高だ……!
「ちなみにお前の回答はまるで模範解答のようだったにゃ。ま、最後に面接するからちょっと待っとけにゃ」
「はいっ!」
 力いっぱい返事した。俺が最後だったら次の面接は緑川か。一番右の席の男だな。
「――緑川、駿河屋の代引きについてなんでもいいから言ってみるにゃ」
「代引き? ……そうですね。三千円以上お買い上げで手数料が無料になるときがあったり、半額になったり……まあ、まちまちですね。わたしはクレジット払いなので利用したことはありませんが」
 むっ、やるな緑川! そこまで知っているのはかなりの通だ。……手強い。もしかしてこいつが一番のライバル?
「送料無料についてはどう思うにゃ?」
「えぇ、それもよく存じ上げていますよ。基本は千八百円以上のお買い上げで無料。さらにランダムで千円以上お買い上げで送料が無料になるキャンペーンも行っている。でしょ?」
 緑川はドヤ顔で答えたがそれは間違いだった。
 消費税が五パーセントから八パーセントに上がったとき、駿河屋は千五百円以上のお買い物で送料が無料になったんだ。また、千円以上お買い上げで送料が無料ってキャンペーンはもうやっていない。千二百円以上になったんだ。
 送料無料の最低購入額が低くなった代償に、ほぼ全商品が値上げした。
 つまり、この緑川って奴は値上げしてからまだ一度も駿河屋で買い物をしたことがない。だから情報が古いままなんだ。
「……コミックのタイムセールの最低単価はいくらかわかるかにゃ?」
「もちろんです。十円……ですよね?」
 決定的だ。今の最低購入単価は三十円! 十円なんて夢のようなセールはもうない。
 ボロを出しちまった。スルガニャンの逆鱗に触れるぞ。
「最後に……お前は最近駿河屋で買い物をしたかにゃ?」
「えっ? ……まあ、そう、たまには……ね」
「不採用ッ!!」


 緑川も面接に不合格かよ。だらしねぇ。そんな生半可な気持ちで駿河屋の入社試験に挑むなっての。ここまで勉強不足とは笑っちまうぜ。へへっ、これまでの質問、俺だったら楽勝だ。
「では、最後の変態に面接をしようかにゃ……」
「涼野です。涼野守!」
「わかったにゃ。じゃあ、涼野。お前が駿河屋に入社したら、我が会社にどんなメリットがあるにゃ?」
 これは普通の会社の面接でもよく聞かれる質問だな。ここで御社の利益がうんぬん、と言うのは駿河屋らしくない。駿河屋はチャレンジし続ける会社。発想が柔軟で若い。誰も思いつかないことを駿河屋は見事やってのけている。
「わたしが駿河屋に入社したら……まず、あなたのぬいぐるみを作ります!」
「にゃにゃにゃっ! にゃんとっ??」
 スルガニャン、ビビってる。その顔もキュートだ。
「スルガイヤーの憧れ、それはスルガニャン。あなたです」
「な、なにを言ってるかにゃ?」
「あなたのぬいぐるみを作ればすべてのスルガイヤーは買います。プレイ用に一つ。観賞用に一個。保存用に一個……合計三個は買いますよ。間違いなくね。それもどんなに高くても買う! 俺なら十個は買います!」
「プ、プレイ用とはなんにゃ……? 言うんだにゃっ!」
「もちろん、頭を撫でたり、お腹を撫でたり……ぐふっ、キスなんか、したり……」
「言うなっ!! それ以上は言うなにゃっ!!」
 スルガニャン、怒っているな。いや、ビビっている? これだけではただの変態か。もっと実用的な話もしたほうがいい。
「タイムセール……ありますよね。あれ、なぜ夜もしないんですか?」
「なにを言っている。夜にお買い物なんかする人間なんているもんかにゃ。皆、寝てるにゃ。そんな時間帯にタイムセールして誰が買うかにゃ」
「いえ、買います! わたしは毎日駿河屋のサイトを二十回は見ます。寝ていても途中で目が覚めるんですよ、駿河屋が気になって。いつ珍しいものが新入荷するかわかりませんからね。駿河屋のお買い物は基本、早い者勝ちだ。だったら常にサイトを見ておくべきですよ。家にいるときは、わたし、ずっと駿河屋のサイトを開いてますよ。飯を食うときもです。風呂やトイレに入るときだって、駿河屋のサイトを見ている」
「こ、こいつ……根っからの変態?」
「それほど! 駿河屋には魅力があるというのです。……駿河屋は福袋屋と言っても過言ではありません。だったら福袋をもっと強化してはいかがでしょうか? 現在、二百以上の福袋を購入できますが、さらにバリエーションを増やしましょう。そうですね、同じ福袋でもはずれ袋と当たり袋を作って、よりギャンブル性を高めてはいかがでしょうか? そもそも福袋を買うことなんてギャンブルのようなもんです。もしかしたらいいものが入っているかもしれないという欲求で人は福袋を買うんですね。だったら、よりもっとハイリスク、ハイリターンで――」
「もういいにゃっ! ……もういいにゃ。お前は合格だにゃ。そんなに熱く語られるとは思わんかったにゃ。おかげで部屋はムンムンとして暑い。お前のせいにゃ」
「ありがとございますっ!! スルガニャンっ!!」
 ――というわけで俺一人だけ面接に合格した。他の受験生ともう会うことはないだろう。

 俺はこれで駿河屋の正社員になれると思った。スルガニャンと駿河屋の仕事だ。これ以上の仕事はない。そう思った。
「じゃあ、最後に……」
 スルガニャンが言葉を遮って、俺は言った。
「最後に? まだあるんですか?」
「そうにゃ。筆記、面接、お前はそれにすべて打ち勝ったにゃ。見事と言うべきにゃ。……でも、実技試験があることを忘れてはいけないにゃ」
「実技……試験ですか?」
「そうだにゃ。明日の夜にちょっとしたセールをするにゃ。お前はそこで、これぞと思うものを買うんだにゃ」
「わかりました。……予算は?」
「それはお前に任せるにゃ。ま、駿河屋はリーズナブルな値段で買えるお店で押しているから、せいぜい二万円ぐらいまでにしておくといいにゃ。なにを買ったかはこちらが管理している個人情報から確認するにゃ。そのとき、合否についてもメールするにゃ」
「面白いですね、それ……さすが駿河屋。いや……スルガニャン。あなたでしょ? 斬新な企画を次々に考えるのは。実技試験の内容を聞いて直感しましたよ」
「うむ、その通り。では、また会えることを楽しみにしているにゃ。お前には期待してるにゃ。おいらにお前の力を見せるんだにゃ」
「はいっ、よろしくお願いします!!」
 スルガニャンが部屋を出る。俺もここを出ることにした。
 駿河屋の建物に後ろ髪を引かれそうになりながら、俺は関西に帰る。でも、また戻ってくるからな!



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