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駿河屋の福袋

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2014年07月28日

俺とスルガニャンとクロガネの翼(5) *この物語はフィクションです

  4 新商品の開発

 ――数日後、俺は駿河屋の幹部となって、普通にスルガニャンたちと駿河屋の今後の経営方針について話していた。
「――で、サイコー君はどう思ってるにゃ? 今後どうすればいいのか……」
「あぁ、聞いてくれ。スルガニャン、皆」
 俺は昨日描いたスルガニャンのイラストを皆に見せた。
「……これは?」
「もちろん、スルガニャンだ」
「お前、会社の経営なめてるのかにゃ?」
「なめたことなんてありません。これからはスルガニャンの時代です」
 ボーっとしているかのように見える三人(一人は猫)は、俺の言った意味を理解していなかった。
「いいですか。駿河屋の目的と言えば、会社としての存続。つまり一定の利益を上げることですよね?」
「そ、そうにゃ……」
「そしてもう一つ大きな目的がある。それはスルガニャンの奥方を探すこと。そうですよね?」
「そうにゃ。できれば両方並行してやっていきたいにゃ。でもそれは難しく、まずは駿河屋の会社をもっといろんな人によく知ってもらう。それが一番の近道だと考えているにゃ」
「そのために客に喜ばれる福袋やタイムセールといった企画を考えてきた……そうですね?」
「そうにゃ。……お前、なにが言いたいんだにゃ? もったいぶらずにさっさと言うにゃ!」
「今まで通り、高く買い取って安く売るのでは儲けは期待できないでしょう。もっとも、この方法を今までしてきたから駿河屋信者は多いです。俺のような……。だが、駿河屋の目的がはっきりした今! ここで経営方針を大きく変えるべきです!」
「その方法とは……?」
「ズバリ、スルガニャンのぬいるぐるみ化」
「待つにゃ。そんなことでうまいこといくはずないにゃ。大体、おいらなんて猫にサングラスをかけただけにゃ。例え、ぬいぐるみを販売したとしても売れるとは到底思わんにゃ」
「いえ、売れます。それは確実です。スルガニャンは2ちゃんを見たことがありますか?」
「あるっていうか、普通に毎日見てるにゃ。それがどうしたかにゃ?」
「じゃあわかっているはずだ。皆が口を揃え、スルガニャンのぬいぐるみ化を熱望している。中にはただの猫のぬいぐるみにサングラスをかけてスルガニャンごっこをしている大人もいるのです」
「そんな奴いないにゃ……」
「います。俺です」
「お前かにゃ……」
「というわけで作りましょう、スルガニャンのぬいぐるみ!」
「待つにゃ。どうも個人的な意見のように聞こえるにゃ。だったらサイトでアンケートを取ってみたらいいにゃ。答えた人には抽選でクーポンをプレゼントする。そしたらお客も本音で話してくれるにゃ」
「スルガニャン……まだ俺のことを信じてくれないんだね。悲しいよ……。でも、スルガニャンの言うこともわかる。ぬいぐるみを作るとしたら十や百じゃない。一万個は作るつもりだよ。確かにそれだけ大きな投資になれば慎重になるのもわかる。じゃあ、アンケートをしよう。そのほうがスルガニャンは安心できるんでしょ?」
「うん……まあ」
「駿河屋は過去に抽選で割引券をもらえるキャンペーンをしたことがある。でも、当たる確率があまりにも低いよ。なに、千円券で七名って。七千円しか提供しないの? って感じだった」
「うん、まあラッキーセブンということで……」
「スルガニャン、俺は駿河屋がどんなにいいお店だってことは知っている。買取価格も販売価格もギリギリに設定していることも知っているんだ。でもね、これからスルガニャンぬいぐるみを発売するんだ。それをたった七名にしか金券をプレゼントしないって、やっぱり少ないよ。ここは五千名に千円券をプレゼントする。それでどうかな?」
「それなら五百万円もの金券を市場にバラ撒くってことなのかにゃ? そんなの大変にゃ。とても回収できないにゃ」
「違う。ここからがミソなんだよ。その金券はスルガニャンぬいぐるみにしか使えない。こういう括りを設定すればいい。……サイトの更新プログラムは誰がしているの?」
「――俺だよ」
 そう言ったのは由宇さんだった。
「由宇さん、俺の言ったことはできる?」
「任せといて。こう見えて、コンピュータの専門学校を卒業したし、大手のコンピュータ会社にもインターンシップで半年ほど実務の経験をしたことがある。それぐらいのことならお手のものさ」
「よし。……じゃあ善は急げです。スルガニャン、ここで決断を!」
「いや、急ぎすぎにゃ。まだ全然話は煮詰まってないにゃ。ぬいぐるみは誰が作るんだにゃ? おいらたちか? 作り方は? 材料費は? ……ぬいぐるみはいくらで売るんだにゃ?」
「ぬいぐるみは委託で作ってもらいます。――これを見て下さい」
 昨夜プリントアウトした、ぬいぐるみを作ってくれるサイトのページだ。
「こ、これは……?」
 ここのサイトはぬいぐるみだけじゃない。
 鉛筆や手ぬぐい、靴下だって作れるんだ。初めはスルガニャンのぬいぐるみを作り、それ以降もどんどんスルガニャングッズを増やす。
 別に俺たちにそういうスキルがなくてもいい。今はこういうオリジナルグッズはお金を払えば作ってくれる会社があるんだ。
「こんなことしてくれる会社があったとは……。でも、費用はいくらかかるんだにゃ? もしかしてめちゃめちゃ高かったりするのかにゃ?」
「そんなことはないよ。最初はイラストや着ぐるみの写真を送るんだって。そしたら委託会社からデザインの仕様書が送られてくるんだ。サンプルが気に食わなかったら修正もしてくれる。三回まで修正は無料らしい」
「ほう、けっこう細かいんだにゃ。しかし、三回まで修正が無料とはありがたいにゃ」
「だろ? サンプルが決まったら量産。そして出荷、納品なんだって」
 オリジナルぬいぐるみではイメージを崩さず、経験豊富なスタッフが、デザインから最適な生地(高品質で柔らかい生地を使用など)、仕様を提案してくれるようだ。
「サイズには決まりがあるのかにゃ?」
「サイズ 二十センチメートル〜四十センチメートル。それ以上大きいものは特別料金がかかるらしい。素材はデザインによって決まるみたいだ。もちろんスルガニャンのサングラスは本物仕様のほうがいい。例え、費用が高くなってもね。……でも、高級スルガニャンぬいぐるみは主に富裕層、もしくはスルガニャンの絶大なマニアに売ろう。一般向けには安い素材を使ったらいい。いろんなスルガニャンぬいぐるみを作るんだ」
「……よく思いつくにゃ。そんなこと」
「数量は五十個、百個、三百個……最大は十万個まで注文を引き受けてくれる。ま、さすがにこれは多すぎるかな。初めは千個ぐらい。最終的には一万以上だ。納期は数によって異なるけど、千個ぐらいなら一か月半から二か月ぐらいでできるみたいだ」
「こういう会社ってオリジナルぬいぐるみばっかり作ってるのかにゃ? ……どんな人が頼むんだにゃー?」
「俺たちのように作ったぬいぐるみを販売しようとしているところもいるし、自社キャラクターをPRするグッズのため、ご当地キャラのぬいぐるみ。イベント、キャンペーンに使うぬいぐるみとか様々みたいだね」

 初回必要全額についてはこのようになる。
 サイズ ぬいぐるみ大(三十センチメートルサイズ) サンプル代一万五千円〜
 サイズ ぬいぐるみ中(二十センチメートルサイズ) サンプル代一万二千円〜
 型代 三万円

 ロット数五十個
 単価目安 二十センチメートルの場合 @二千三百円〜二十センチメートルの場合
 単価目安 三十センチメートルの場合 @四千二百円〜三十センチメートルの場合

 ロット数百個
 単価目安 二十センチメートルの場合 @千八百円〜 二十センチメートルの場合
 単価目安 三十センチメートルの場合 @二千九百円〜 三十センチメートルの場合

 ロット数三百個
 単価目安 二十センチメートルの場合 @八百五十円〜
 単価目安 三十センチメートルの場合 @千五百円〜

 また、ぬいぐるみやストラップに、オリジナルのプリントネーム(布タグ)を付けることや、オリジナルの台紙を付けることが可能。形はハートや丸など好きな形を選ぶことができる。
「――どう、スルガニャン? これだったらなんとかできると思わない?」
「ん、うむ……でもけっこうお金がかかるにゃ。本当にお客さんは買ってくれるかにゃ?」
「絶対に買うよ。……でもその前にアンケートだね。五日もすれば一万前後のアンケート回答が届くはずだ。それまで待っていよう。大丈夫、スルガニャン。きっとうまくいくさ!」
 スルガニャンは最後まで不安そうな顔をしていた。彼は知らないんだ。自分がどれだけスルガイヤーに愛されているかを。

 そして五日がたった。
 俺はこの日、出勤してすぐに二階に上がった。
 一階の受付に塔子さんはいなかった。とすれば二階でスルガニャンと由宇さんと一緒にいる。
「――スルガニャン、お早う。そろそろデータも集まった?」
 スルガニャンと俺はタメ口になっていた。もう家族も同然さ。
「おはようにゃ。すごいにゃ。アンケートの回答が続々と……その内容には驚かされてばかりにゃ」
 俺もアンケートの答えを見てみる。すると、こんなことが書かれてあった。
『スルガニャンぬいぐるみ、最高! こういうのを待っていました。一万円でも買う!』
『むしろ、今までなぜなかったのが不思議です。早くスルガニャンぬいぐるみを販売して下さい。お願いします』
『価格は高くてもいいので、高品質なものをお願いします。まとめて買いたいと思っていますので、複数買うと割引になる設定をしてくれたら助かります』

「これ、もしかしてアンケートの全部がスルガニャンぬいぐるみ希望してる?」
「サイコーさん。『興味ない』って答えたのは全体の一パーセントだけです。『買わない』と答えたのはゼロです」と由宇さんが言った。
「ありがと、由宇君……こりゃいけるね」
「――貴公、本当に父上……いや、スルガニャンのぬいぐるみを作るというのか?」
 そう言ってきたのは塔子さんだった。
「ダメかな……? こんなにお客さんたちが盛り上がっているんだ。こんな回答が連発しているのに、今さら作らないわけにもいかないだろう」
「いや、そう言っているわけではない。わたしもぬいぐるみ作りには賛成だ。しかし、あまりにも大人目線。確かに大人から多く売れるであろう。だが、どうせなら子どもの客層まで広げて売るべきだ」
 と、なると……バリエーションの追加だな。大きさの大小だけなら限界がある。ポーズをいろいろ変えたとしても十パターンぐらいか。
「なにかアイディアがあるみたいだね? 言ってくれ」
 っていうか俺、塔子さんにもタメ口になってるし。
「こう見えてもわたしは女だ。女の子の気持ちはわかっているつもりだ。だったらリボンをつけたり衣装をまとわせるなんてしたらどうだろう?」
「なるほど、それはいい考えかもしれない。……リボンをつける位置は注意したほうがいいな。キティちゃんの偽物とか思われてしまうかもしれない。衣装なら男の子と女の子にウケる両パターンを作ったほうがいい。でも、スルガニャンはオスだろ。女装みたいに見えなくないかな?」
「そこで母上を出したらよかろう」
 なるほど。それは一石二鳥だ。でも、スルガニャンの奥方って名前だとインパクトがない。なにかないかな……。
「スルガ……にゃん子。……ダメだ。ニャル……ニャル? スルガニャル子!」
「スルガニャル子か……いい名前じゃないか」
「スルガニャン、いいよね。奥方がスルガニャル子で」
「う……ま、まあいいにゃ。嫁はおいらと瓜二つにゃ。お尻の傷の位置だけは気をつけてほしいにゃ。右がおいら、左は嫁にゃ」
「あぁ! じゃあまずはノーマルなスルガニャンぬいぐるみを作るぜ。とりあえず千個だ!」
 もしアンケートで『買う』と答えた人たちが全員買ったとしたら、とても千個じゃ少ない。でも初めだ。慎重に動かないと。
 今日は小さいサイズと大きいサイズのスルガニャン千個ずつを作った。
 経費として、小さいほうが五十万円。大きいほうが百万円かかった。

「……さて、値段の設定だね。原価がそれぞれ一体五百円、千円とかかっている。そこで俺の提案なんだけど千五百円、三千円でどうかな?」
「三倍かにゃ? 百五十万の投資で四百五十万! それはいくらなんでもぼったくりにゃ」
「スルガニャン……安いよ。まだこれでも全然安い。駿河屋が客のお財布に優しい経営をしていることは俺も知っている。でも、高くても売れるんだよ。逆に安ければ大切に扱ってもらえない可能性がある。そんなの嫌だろ? ……俺は嫌だ。スルガニャンぬいぐるみだ。皆には大切に扱ってほしいと思っている。宝物だ、と胸を張って言ってもらいたい」
「そんなもんなのかにゃ? たかが猫のぬいぐるみにゃ」
「ただの猫のぬいぐるみじゃない。スルガニャンのぬいぐるみだよ? ラブリー、スルガニャンだ。ラブリースルガニャン。ラブリースルガニャンッ!!」
「やめてほしいにゃ。照れるというか、そういうの飛び越して呆れるにゃ」
「由宇君。スルガニャンのぬいぐるみ販売の件、ネットで告知しておいて。俺もブログで皆に呼びかけておくよ」
「OKェ〜!」
 カタカタカタ……。
 順調に物事は進んでいった。あとは納期を待つだけだな。

 二週間がたった。いよいよスルガニャンぬいぐるみが二千個、駿河屋に届く。
「待ってましたぁ〜! スルガニャンぬいぐるみっ!」
「本当に売れるのかにゃ……」
 スルガニャンはまだ不安な気持ちが残っていた。
「箱、開けていい? スルガニャン」
「いいにゃ。さっさと開けるんだにゃ」
 とは言ってももうサンプルで一度見てるんだけどね。ダンボールを開けたらスルガニャンぬいぐるみがたくさん入っているのかぁ。楽しみ!
 ビィィーッ!
 一気にガムテープをはがした。――すると、ビニール袋に詰められているスルガニャンがたくさん。
「スルガニャンだ……それも四足歩行のスルガニャンだ」
 スルガニャンがぬいぐるみを持って、じろじろと眺める。
「これ、おいらと同じサイズだにゃ」
「そうだよ。スルガニャンを隠し撮りしたとき、こっそり計ったんだ」
「お尻の傷跡までそっくりにゃ!」
「そうだよ。できるだけ本物のスルガニャンに近づけてたくてさ。これならお客さんも大喜びだ」
「こんなもん、売れ残ったら恥にゃ。大量に余ったおいらのぬいぐるみはどうするんだにゃ?」
「余らないよ。確信を持って言える。もし余るなんて起こらないことが起きたときは、俺が借金してでも全部買うよ、スルガニャン。それだけの価値がこのぬいぐるみにはある!」
「サイコー君……」
 俺は君に幸せを届ける。
「由宇君っ! サイトの更新だ。スルガニャンぬいぐるみの販売だっ!!」
「はいっ!」
 カタカタ……!
 売れろっ! 皆が待っていたスルガニャンぬいぐるみだ。

 ――更新してわずか一分。注文数が一になった。
「売れたにゃっ! スルガニャンぬいぐるみ……サイズは大のほうだにゃっ!」
 大のサイズだと三千円。決して高くない。しかし、更新後わずか一分でこれならまずまずのスタートか。
「サイコーさん、また一件注文です! 今度は大きいサイズ二つ!」
「よし、いい調子だな。だがもっともっと売れる!」
 今の時刻は朝の十時。これが昼休みになれば駿河屋のサイトにアクセスする人も増えてくる。
「また一件! 小さいサイズです!」
「よしっ!」
「あ……な、なんだこれ。五件、六件……? あっという間だ。二十件? まだ伸びてくる?」
 これは……?
 俺はもう一つのパソコンで2ちゃんを見た。そしたら誰かが宣伝している。とうとうスルガニャンのぬいぐるみが発売されたって。
「由宇君、サーバーのほうはどうだ? 負荷がかかっていないか?」
「いえ、今のところは大丈夫です。しかし……」
 夜になるとまずいというわけだな。今日はタイムセールをやめるか。少しでもスルガニャンぬいぐるみを買ってもらえるために。
「サイコーさん、これ、すごいですっ!」
「どうした……なっ??」
 売上数がすごい。もう二百に達する勢いだった。まだ売り始めてから三十分もたっていないというのに。
「前日から告知していたのが功を奏したな」
「はいっ、これだと今日中に売り切れですよ!」
 スルガニャンは口を半開きにしてボーっとしていた。
「スルガニャン、これが君の実力だよ。これだけ皆に愛されているんだ」
「たっ、たかがサングラスをかけた猫のぬいぐるみに……三千円も使って。うっ……」
 スルガニャンは泣いてしまった。皆の気持ちが嬉しかったのだろう。
「スルガニャンぬいぐるみが全国各地に渡っていく。これでスルガニャンの奥方もどこかで見るだろう。スルガニャンぬいぐるみを。そしたらきっと連絡をくれるさ。だからがんばろう。俺、委託会社に頼んでもう五百体作ってもらうことにするよ! スルガニャル子の件についても計画を進めてもらうように話しておく!」
「サイコー君、頼んだにゃ!」

 昼休みを過ぎる頃には売上が大小サイズそれぞれ五百体ずつ売れていた。
「こりゃあ夜までもたないな……売れるのはいいが、買えないお客さんに悪いことしてしまった。ヤフオクなんかで高く転売される可能性だってある」
「駿河屋を利用する者は転売ヤーも多いにゃ。こっちとしてそれは別にかまわにゃいんだけど、おいらのぬいぐるみで転売されるとは複雑な気分だにゃ」
 スルガニャンはキャットフードを。俺たち人間はうまい棒を食べていた。
「でも、なんでうまい棒?」
「うまい棒は駿河屋に十万本以上あるぞ。手軽に食べられておいしい」と塔子さん。
「出前取ろうよ。外出する時間がないんだったら……」
 なんかもうソワソワしすぎて、出前を取るだけでも面倒に感じてしまう。……ほら、もう六百個も売れた。あと四百個しかない。
「ねぇ、スルガニャン。これでもうスルガニャングッズは売れるって信じてもらえたかい?」
「うむ……いい感じに売れているにゃ」
「委託会社の人に相談したんだ。ぬいぐるみ以外でもオリジナルグッズを作ろう。ぬいぐるみの次はノート、メモ帳、シール、ストラップ、ハンカチ……キーホルダーに携帯クリーナー。それに――」
「ちょっ、待つにゃ。サイコー君はいつでも行動が早いにゃ。……全部任せるにゃ。スルガニャングッズについてはすべてサイコー君に任せる!」
「ありがとうごさいます! 必ず、駿河屋の売上に貢献できるようにがんばります!」
 スルガニャンからお許しの言葉をもらった。俺はこの日から暴走する。

 スルガニャンのぬいぐるみは確かにかわいいが、大人ならもっと求めるはずだ。
 しかし、本物の猫など売れるわけもない。そうなってしまえばペットショップだ。猫を飼う手間もいるしな。
 客が求めるのは手入れなどしなくてもいい、最高級のスルガニャン。材質は特殊なゴムなんかを使えばいい。もちろんコストはかかる。
 だが、ハイクオリティのスルガニャンフィギュアは需要がある。
 俺は柔らかい素材でスルガニャンフィギュアを作ることを提案。もちろん毛の一本一本までこだわり、肉球の感触も本物にできるだけ似せた。
 そのサンプルが届いて、俺はずっと肉球をぷにぷに押して遊んでいた。
「あぁ〜、ラブリー……スルガニャン」
 スルガニャンぬいぐるみを売り始めて二週間がたった。
 追加発注を頼むが納品されたその日に即売という人気ぶり。まだまだ需要はある。
 スルガニャル子のぬいぐるみも好調に売れている。ポーズや衣装のバリエーションも豊富に扱うようになった。
 そして、そろそろ来るのではないかと俺たちは待った。スルガニャンの奥方。塔子さんや由宇君にとってはお母さんだ。
「……なぜ、連絡が来ないんだにゃ? スルガニャンぬいぐるみがこんなに有名になった今! 連絡があってもいいじゃないのかにゃ? 嫁は、おいらのことを嫌っているのかにゃ? それとも……」
「それ以上口にしてはいけないよ、スルガニャン。大丈夫、きっと生きているはずさ。ただ、連絡ができないだけ」
 でも、なぜ連絡ができないのだろう。考えたくないが、嫌な想像ばかりしてしまう。
「いっそのこと、サイトに呼びかけてみてはどうかな? スルガニャンそっくりの猫、どこかで見ませんでしたかって」
「それはいい考えかもしれないにゃ。……でも、こんなふざけたこと書いてバカにしてるのかって思われないかにゃ?」
「スルガイヤーはそんなことしないよ。皆、探してくれるさ」

 だが、この試みはなかなか結果を出すことはできなかった。
 サイトの横隅に記事を載せて一週間たった今でも、目撃情報は一つも届いていない。
「やっぱり、嫁はもういないんだにゃ……死んだと考えるのが普通だにゃ!」
 この日、スルガニャンは荒れていた。あせる気持ち、俺にはわかる。でも、まだ一週間しかたっていないんだ。できることならまだたくさんある。諦めてほしくはなかった。
「もっとぬいぐるみを売ろう、スルガニャン。俺もブログに訴えかけてみるよ。そうしたら絶対見つかる。海外からもスルガニャンぬいぐるみの販売を希望する人たちは多い。今度は日本だけでなく、世界まで販路を広げるんだ。それなら――」
「世界にこんなぬいぐるみが売れるかにゃっ!」
 ――ボトンッ!
 スルガニャンは自分のぬいぐるみを乱暴に地面に投げつけた。
「スルガニャン……」
「会いたいんだにゃ! 生き別れてもう十年……辛いんだにゃ! 待っているだけっていうのは……辛いんだにゃっ!!」
 俺はスルガニャンの体を抱き寄せた。
「こ、こらっ! サイコー君。なにをするんだにゃ?」
「辛かったね、スルガニャン……スルガニャンの辛い気持ち、俺にも半分分けておくれよ。半分なら、そんなに辛くないだろ?」
「うっ、うぅ……」
 スルガニャンは俺の胸の中で泣いた。思いきり泣いた。……俺のシャツがスルガニャンの涙が染み込む。
 俺はスルガニャンの背中をゆっくり撫でた。
 スルガニャン……俺のかわいい、スルガニャン……。
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